コスモス 第十話「万能なコスモス」

 対艦三連装貫徹砲六基十八門、ホーミング・アロー十八門、対空機関砲、可変式多目的ミサイルなど、よく分からない単語がずらりと表示されているモニターを見る。

 コスモスの装備や性能表を、出してもらったのだ。

「凄い数の装備ですね…」

 イオが呆れたように言う。

 僕も、この装備の多さに驚いている。

 火砲だけでも百門近くあり、どの武器も威力は使ってみるまで分からない。

 ただ、さっき唯一使ったホーミング・アローは、多分自動で目標を追尾するタイプの武器だと思う。

 装甲は特殊物質超複合装甲と、圧縮空間複合装甲というもので、かなり強固そうな造りになっている。

 装甲以外の防御として、バリアーやシールドも装備されている。

 センサー類やレーダー類、システム類も充実していて、いくら戦闘列車だからって高性能すぎじゃないかなと思う。

 しかも、自己修復能力と、列車内である程度の物資を生産できる機能を持っていて、ほぼ無補給で行きたい所へ行ける。

 絶対に兵器としての生産性は皆無だけど、その分、かなり万能に造られている。

 敵の次元走行列車は、コスモスのホーミング・アローで撃墜できた。

 でも、それが母船のような巨大な船(UFO)にも、通用するか分からない。

 列車が持つ戦力が、艦クラスに対抗できるのかな。

「そういえば…」

 敵の次元走行列車は、同じ見た目の列車が複数いた。

 もしかして、量産型なのかもしれない。

「コスモス、敵の列車の情報だけでもない?」

「申し訳ありません、データが見つかりませんでした。ただ、私を造った世界と同じなのは確かです」

 コスモスには、他の列車のデータ以外の重要な情報があらかじめインプットされているみたいだ。

「そっか…敵のあの大きな船は、母船か何か?」

「いえ、あれはおそらく、星を破壊することを目的とする次元航行型の艦船だと思われます」

 という事は、周りの列車は、護衛用で配備されていたのかもしれない。

 前に観たアニメに、そんな感じの設定があった気がする。

 他に何か情報がないか、他のモニターを見渡して探すと、斜め前にいるイオが何か言いたそうに、チラチラと僕に視線を送っているのに気が付いた。

「どうしたの、イオ?」

「あの、少し失礼させてもらってもいいですか?お風呂に入りたくて…」と客車側の扉の方を指さして言う。

「あ、いいよ。行ってらっしゃい」

 この列車、お風呂も付いてるんだっけ。

 イオが上がったら、僕も入ろうかな。

 体育祭の練習中に逃げたから、ずっと泥や砂だらけの体操着のままなんだ。

「ご主人様はどうします?お背中流しましょうか?地球にはそういう文化もあると本で読んだのですが」

 いきなりそんなことを言い出すイオに、心臓が飛び出しそうになる。

 一瞬、本当に一瞬、色々ダメなことを想像してしまった気がする。

「僕はいいよ!後で入るから!」と慌てて返す。

 人じゃないといってもイオは女の子だし、何よりも恥ずかしい。

 一体、何の本読んだんだろう…。

「それじゃあ、お先に失礼しますね」

「うん」

 イオは戦闘指揮所を後にし、僕はモニターに視線を戻す。

「ビックリした…」

 深く息を吐き、シートを座り直す。

「コスモス、お願いがあるんだけど」

「はい、なんなりと」

「僕の服を作ってほしいんだ。この格好じゃ不便でさ」

 服を指で摘まみながら言う。

「分かりました、すぐに作りますので少々お待ちください」

 丁寧な口調で、コスモスは応えてくれた。

 やっぱり、万能だと思うと同時に、これだけ万能なら意外ととんでもない弱点がありそうで怖いと持った。

「コスモスって、万能だよね」

「ですが、私は乗り物であり、兵器です。持ち主がいなければ、意味がありません」

  万能なのは否定しないんだ。

「不思議だよね。僕みたいな普通の人間が、コスモスのマスターっていうのになるなんて」

「何かの縁ですよ、マスター」

 思わず、僕の頬はゆるんだ。

 

「ふぁ~」

 モニターにびっしりと文字が表示されていて、いい加減目が疲れ、あくびが出てきた。

 座りながら、背伸びをする。

 体育祭の練習や、泣いたことや、安心したこともあり、かなり眠くなってきてしまった。 

 服が完成したら、お風呂に入って寝よう。

 そう決め、眠らないように頑張って体を動かしてみるけど、あまり効果が無い。

 それどころか、トイレに行きたくなってきた。

 若干眠気と疲労で思考が鈍ってる僕は、コスモスにトイレの位置を教えてもらい、客車の扉の前で立ち止まる。

「えっと…ここだっけ、この扉…?」

 お風呂の位置も教えてもらえばよかったかな。

 そんな事を考えながら、ドアノブに手をかけ、開けて中に入る。

「……え?」

 思わず声が漏れる。

 ドアの先には、バスタオルを巻いたイオが立っていた。

「あ、もう上がったので、入って大丈夫ですよ。」と笑顔で対応するイオ。

 頭がフリーズして一言も出ず、ただ固まる僕。

 この状況を理解した途端、僕は目を瞑り、勢いよくドアを閉めて廊下に出る。

「ごめん!!トイレと勘違いしちゃってた!」

 そんな最低な言い訳で許してもらえるだろうか。

「あの…トイレなら隣ですよ」

 許してくれたのだろうか、イオはドア越しに冷静に答えてくれた。

 よくよく見ると、隣にもドアがある。

 そのことに気づくと、さらに恥ずかしくなり、全力で謝る。

「本当にごめん!!ごめんね?!」

「私は、気にしていないですよ」

 本当に気にしていないのか、イオの声は落ち着いていた。

 とにかく、逃げるようにトイレへ駆け込み、便座に座る。

「羞恥心とかないのかな…。いや無理して平静を保っているかもしれない。いやでもバスタオルしてたし…」

 小声でブツブツ独り言を言っていると、コンコン、とノックされた。

「ご主人様、お風呂から出ました」

「ああ、うん。ありがとう。僕も入るから、どこかで休憩してて」

「はい!」

 イオがどこかに言ったのを確認し、さっさと用を足して、トイレを出る。

 ふと、さっきの光景が脳裏によぎり、振り払うように頭を振る。

「もういいや、お風呂入ろ…」

 服の完成を忘れて、脱衣所で服を脱いでお風呂に入った。

 浴室には、白い浴槽、銀色の蛇口や手すり、リンスやシャンプーやボディーソープが台に並び、本当に列車か疑いたくなるほど普通の家と変わらない。

 だから僕は、いつも家でやるみたいに、ボディーソープを手の平に出して泡立て、泥や塵と埃、汗で汚れた身体をよく洗う。

 泡を流し終えて、浴槽に目をやる。

「イオが入ったをお風呂…」

 イオの姿が頭の中に浮かぶ。

 ハッと我に返り、首を振る。

 何を考えてるんだ僕は。

 無心で浴槽につかる。

 体中が痺れ、外側から内側へと、温かさがしみ込んでくる感じがし、疲れが癒されると同時に、それだけ疲れていたことを実感する。

 リラックスしていると、急に外のドアがガチャッと開く音がして、とっさに首まで湯船につかる。

「ご主人様。コスモスに、服が完成したから持って行くように言われてきました。着替えです」

 そういえば、そうだ。すっかり忘れてた。

「さっき来ていた服は洗濯機に回しますね」

「あ、うん。ありがとう…」

 この列車洗濯機までついてるんだ、と内心突っ込む。

 というか、イオに洗濯されるって、かなり恥ずかしくないだろうか。

「それでは、ごゆっくりしてください」

 またガチャンという音がした。

 イオが脱衣所から出ていき、安心した僕は、浴槽の中で体を伸ばす。

 僕がお風呂を上がったのは三十分してからだった。

 

 脱衣所のカゴに、新品の下着と、サラサラの生地で、かすかにファッションセンターであるような匂いの白いTシャツ、それから黒いズボンが置いてあった。

 普通の人だったら怖いんじゃないかな。

 だって、服しかお願いしてないのに、機関車が気遣って下着まで作ってくれたのだから。

 お風呂でさっぱりした僕は、指揮所に戻る。

 ドアを開けると、イオが端の席に座っていた。

 スタスタと歩み寄り、声をかける。

「お風呂あがって来たよ。お湯抜いた方が良かった?」

「おかえりなさい!」と立ち上がるイオ。

「自動洗浄しますので、そのままでいいです」とコスモス。

 いい加減、便利だと驚くことをやめる。キリがないのだ。

 イオに目をやると、制服を着ていることに気づく。

「イオ…お風呂上がっても制服なの?」

「はい、これが丁度良くて」

「さっき着てたやつ?」

「違います!ちゃんと着替え用のです」

 自分の服を引っ張ってアピールするイオ。

 着替えても制服なんだ…。

「寝るときはさすがに…」

「制服です」

「えぇ…」

 まあ、イオがいいって言うのなら、ぼくがどうこう言うべきではないのかもしれない。

 これ以上イオの服について考えるのをやめ、もう寝ようと、寝る準備をする。

「コスモス、確か僕専用の個室ってあったよね。今日はもう、そこで寝ようかなって思うんだ」

「あ、それじゃあ私も、もう寝ますね」とイオが席から立ちあがる。

「分かりました。お二人とも、おやすみなさいませ」

「「おやすみ」」

 僕とイオは指令室を出て、客車の方へ並んで歩く。

「初めて、コスモスに泊まるよ」

 ちょっとだけ、ワクワクしている。

「設備は充実しているので、泊まり心地いいですよ」

「イオはどこで寝てるの?」

「本当はお客様用の個室なのを、私の私室にしてもらってます」

「そうなんだ。まぁ、お客さんとかあまり来ないからね」

 僕らは話しながら、一号車を越える。

「それにしても、窓の外がずっと同じ超空間だと、時間の感覚狂いそうだね」

「起こしに行きましょうか?」

「え、起こしてくれるの?」

 コクリ、と頷くイオ。

「じゃあ……七時間後ぐらいに起こして」

 若干、照れながらイオにお願いする。

「はい!分かりました。あ、ここですね」

 気づけば、僕の部屋に着いていた。

「おやすみ、イオ」

「おやすみなさい」

 挨拶をし、部屋の前で軽く手を振って別れる。

 銀色の取っ手を掴みドアを開けると、室中は木材を基調にした落ち着いた部屋で、青いカーペットが敷かれていた。

 入ってすぐに木製っぽい机と椅子が置かれていて、左には白くて大きいベッドと、スタンド付きの台が設置されている。

 奥には、外がよく見えるくらいの大きい窓があり、光を遮るほど分厚いカーテンが閉められている。

 本当ならこの豪華な部屋に、はしゃぐんだろうけど、それよりも早く寝たいという欲求が勝ち、僕はすぐに部屋の明かりを消して、一目散にベッドに倒れこんだ。

 フカフカで柔らかいベッドは、僕をすぐに眠りに誘った。

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