• ヴァ―レ・リーベ 第9話「やるべき事」

     

      幸い敵は鈍足らしく、敵影は無かった。  もしかしたら身を潜め、どこからか狙撃をしようとしていない限りは、まだ安全な地だった。  友里はI-903の肩に立ち、辺りを確認した。  戦闘を行うとすれば、ここの広さは十分であり、また閉演時間を超えているため、人は少ない。  職員はいるだろうが、少し離れたところに事務所があり、直接的な被害は考えづらい。  迎え撃つならここである。  下で人間の…



  • ヴァ―レ・リーベ 第8話「判断できない」

     

      奏汰は友里の言葉の一つ一つに注意深く、静かに聞いていた。いやむしろその信じがたい話に口を開き、声を失っていたとした方が正しいかもしれない。  全てを理解し信じろと言われても、こんな話簡単に飲み込めるような内容ではなかった。  が、一方で友里の今までの言動や、実験や研究が好きであること、同年代に比べて有能であること、天才ぶり、発明の数々を考えてみれば、確かに前世の記憶があると言われても…



  • ヴァ―レ・リーベ 第7話「ロボット」

     

      奏汰と友里は見つめ合った。  片方は困惑の表情、もう片方は覚悟を決めた表情。  先ほどまで2人きりで静かだったはずのラボには、危険を知らせる警報が鳴り響いている。それは壁に掛けてある時計が、チッチッチッと秒針を鳴らし「時間が無い!急げ!」と必死に伝えようとしているのに、その音すらかき消してしまう。  実際、2人には猶予は残されていなかった。こうしている間にも武装した男たちは家の周りに…



  • ヴァ―レ・リーベ 第6話「彼女は何か知っている」

     

      茶色いドアの銀色に輝くドアノブを握り玄関を開けると、誰かがフローリングを走っているのか激しい足音がした。  その音は段々と近づいて来ており、遂には何やら慌ただしく玄関に繋がる階段をドタドタと駆け下りてくる、白衣姿の友里が姿を現した。 「ただいま」 「あ!おかえりー。って家は奏汰の家じゃないんですけど」  奏汰がリュックを背負ったまま、直接友里の家に来たことに抗議をした。 「いや、もう…



  • ヴァ―レ・リーベ 第5話「人間関係」

     

     「クラスで、根も葉もない変な噂が立っているのは、古谷も知っているな?」  奏汰や友里のクラス担任である佐藤先生は、他の教師たちが忙しく雑務をこなしている職員室に奏汰をお呼びだし、出来るだけ穏やかに務めて、話を切り出した。 「………はい。今朝、ニュースでやってた、工場が爆発して、それがロボットの襲撃のせいじゃないかって話ですよね。それを友里がやったって。でも俺はおいつがそんなことをしない…



  • ヴァ―レ・リーベ 第4話「異変」

     

      次の日の朝、今日は友里は研究のために学校に体調不良という名目で休み、奏汰は1人で登校することとなった。  1人で歩く通学路は味気なく感じ、ワイヤレスイヤフォンで音楽を聴きながら早歩きで学校に向かって歩いていた。  とあるアニメのOPソング。それは朝に聞くにはピッタリなほど元気な曲で、この世の絶望や不平不満など全て吹き飛ばしてしまうようなもので、友里と登校しない日はいつもこの曲を聴いて…



  • ヴァ―レ・リーベ 第3話「秘密」

     

      他よりも大きな白い家の黒い表札には小黒と書かれており、その家の中のリビングではカチャカチャとフォークと食器が軽い音が、踊るように両サイドからなっていた。  リビングはラボの隣にある、比較的片付いていて、尚且つずっと小さい部屋で、テーブルにパスタやスープが彩られて置かれた食器が並び、近くの椅子には友里と奏汰が向かい合って座っている。今夜の夕飯は家に家族がいなく、また家事が不得意な友里の…



  • ヴァ―レ・リーベ 第2話「研究室」

     

      杉田高等学校の校舎には約1000人もの生徒が、40人ごとに教室に入り、自分たちの席に座り、教科書を広げノートを広げ、教師によって行われる授業を聞いて、必要であればメモを取るし、指示があれば問題を解いている。  しかし一般的で真面目で優秀な大多数の生徒が、教師の理想とする授業態度をとるのに対して、少数の生徒はそうではなかった。ある者は、教師にバレないように教科書を立て、持ってきていたお…



  • ヴァ―レ・リーベ 第1話「天才少女」

     

      街。平穏な街。大勢の人間が、アスファルトをも焼いてしまいそうな朝日に見守られながら、しかし見守られていることなど露ほども知らず、スマホやら携帯電話やらを見るために下を向いて歩いている。どこを見ても大勢の人の群れ、動かない車の列、何度も行きかう電車、広い空に独特な機械音で存在感を隠そうとしない飛行機。誰もが忙しい。そんな息苦しく、物々しい風格とは無縁な街。都会とは少し離れている街。  …



  • コスモス最終回「新たなる旅立ち」

     

      空は薄く明るくなっており、青空は見えているのに太陽はまだ昇っていない。  コスモスは少し長い汽笛を二回、長い汽笛を一回鳴らした。  これは本当なら車掌を呼び出すための汽笛合図だけど、今回は僕に準備が出来たことの合図だろう。  大人の身長よりも遥かに大きい動輪の元まで行き、その巨体を見上げてみた。  煙突からは白い煙が上がっていいき、まるで青い空に溶け込んでいくようだった。 「自己修復…