いつもの森にある河原まで、フライアは戻ってきた。優雅に流れる河の水面は日の光でギラギラと眩しく輝いており、種類の判別しない魚たちが泳いでいる。分厚い装甲に守られた重い脚を動作させ、ズシンズシンと足音を立てた。奏汰にはそのことを気にする気力が残ってはいなかった。倒木がある所でフライアは立ち止まった。肩部と背部、そして脚部の排気口から蒸気を吹きだし、内部にたまった熱を放出した。 「ここまで来れば大丈…
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ヴァ―レ・リーベ 第25話「諦めない」
斜めになったコックピット内で、奏汰は身体を起こすと頭を数度振り、周囲を一望できるスクリーンで状況を確認した。どうやら建物かどこかに吹き飛ばされたらしく、フライアの周りには瓦礫が散乱している。 「あいたた………。大丈夫か?フライア………」 「私は大丈夫。まだ戦えるわ」 先程、何が起きたのかを思い出してた。 「あいつ、ミサイルの方向変えやがった」 「誘導弾だったね」 奏汰はレバーを握り直し、体勢…
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ヴァ―レ・リーベ 24話「翼竜」
長く、退屈に感じた4限目の授業が終えるチャイムが鳴り、奏汰は目を覚ました。口元からは、わずかに涎が乾いたような感触がした。すでに授業の片づけをしていた他の生徒たちは、教材を机、或いは鞄にしまい、代わりにお弁当を広げた。財布をもってキャッキャッと購買の弁当や唐揚げを買いに廊下へ出ていった。 「急げ!パン売り切れるぞ!」 「唐揚げ丼残ってるか!?」 「早くきてよー!」 「仲野、今日奢って!」 クラ…
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ヴァ―レ・リーベ 第23話「登校」
月曜日。スマホのアラームがなる5分前、奏汰は目を覚ました。夢から現実世界へと引き戻された彼は、ふと、友樹に「明後日、学校に来いよ!出来たらでいいから!」と言われたことを思い出した。暗い部屋に遮光カーテンの隙間から漏れる日の光が、空気中に漂う埃を幻想的に輝かせる。彼の心の悲しみも、数日も経てばある程度は軽減した。とはいえ、今でも小黒友里の死について思い出すと吐き気を催してしまうが。それでも、悲惨な…
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ヴァ―レ・リーベ 第22話「友樹の興味」
「つまり、あのロボットは小黒が造ったもので、お前が操縦者になった、と?」 「まぁ、そういうこと」 フライアのいる森へ続く道を、奏汰は自転車を押して、友樹はその横を歩いて行く。 奏汰は結局、フライアのことを友樹に打ち明けた。さすがに、小黒友里の人格と記憶をAIにインプットしていることは隠したが、小黒友里は転生者であること、彼女がフライアを造ったこと、フライアが自律して思考出来ること、戦闘用である…
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ヴァ―レ・リーベ 第21話「初めての戦いの後」
いつもの森へとフライアは奏汰を乗せてやってきた。辺りはすっかり薄暗くなった。大きな物音を立てない様に注意しながら、足を踏み入れる。 「ここまで来れれば、ひとまずは大丈夫かな」 奏汰はようやく落ち着けるな、とまた背もたれにもたれかかった。フライアのコックピット内は1人分というには、少し広く思えた。 前は、友里がここに座ってたんだな。 外の様子を映し出すモニターを眺めながら、奏汰は口を開いた。…
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ヴァ―レ・リーベ 第20話「力比べ」
人々が生活を営む繁華街の道路に、2体のロボット。 両者はゆっくり、またゆっくりとお互いに脚を重々しく動かし、近づく。 「なぁ、あいつ、人は乗っているのか?」 奏汰は、友里がこのフライアを動かしている時の記憶を思い出していた。あの時のロボットはコックピットに、奏汰と同様、人が搭乗して操っていた。もしも、ここでいま目の前にいるロボットを倒してしまえば、自分は殺人者になるのではないか、とふと考えた…
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ヴァ―レ・リーベ第19話「貴方を認める」
フライアは奏汰が首から下げる青いペンダントに備え付けられたカメラを通して、彼女のパートナーである古谷奏汰を見ていた。 奏汰は目の前にいるロボットに、わざわざ物を投げつけて、自分に注意が向くように仕向けている。 何故か。それはロボットの足元にある。 逃げ遅れた人間2人がロボットのそばにおり、危険な状態なのである。 フライアにとっては、ただの人間が2人。しかし奏汰にとっては違っているようだっ…
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雨の日の人影 前編
午後5時45分。懐中時計の針はその時刻を指していた。 まだ6月で、雨天の今日は外を歩くには肌寒かった。 周りに立つ木々は緩やかな風に揺れ、私の手に持つ傘には雨粒が激しく打ちこんでいた。 私が今現在いるこの場所は都心の端にある、小さな山の上の児童公園。地理に疎い私は、この公園の名前を知らない。そんな私がわざわざ混雑した電車に乗り、雨に濡れてまでここに訪れたのは、山の麓に一列に並び咲き誇る紫陽…
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ヴァ―レ・リーベ第17話「奏汰が抱えるもの」
「なぁ、結局、お前はこれからどうするんだ?」 奏汰は見上げ、目の前に聳え立つその屈強な造りをした兵士に問いかけた。鉄壁の鎧に包まれたその兵士からは、何者をも寄せ付けないほどの迫力のある見た目に反して、可愛らしい少女の声がした。 「私だって分からないよ。製作者様(小黒友里)に貴方をパートナーとして登録されちゃった以上、貴方と行動を共にしないといけないし。でも、私は貴方をまだ認めてないし…………」…