コスモス 第二話「出逢い」

   蒸気機関車は、片側だけで六つの動輪があり、車軸配置は4-6-6-4になっている。

 煙室ドアには、プレートの代わりに二つの八角形の板が横に並んで付いていて、その下に大きなスカートがある。

 おかしいのは、牽引している客車(?)だ。

 車両の左右と屋根の上に戦艦大和であるような三連装主砲に似たものが付いている。

 いわゆる、戦闘車両的な何かだ。

 その戦闘車両が、炭水車の次と後ろから三番目に繋いでいるのが見える。

 前の戦闘車両の次につながれている客車は、前後が外に出られる展望デッキになっていて、どうやって乗り降りするのか疑問に思った。

 戦闘車両と展望車以外は、普通の茶色い昔ながらの客車で、最後尾には電気機関車が繋がれている。

 車両の下や、車輪、連結器など列車のあっちこっちを観察する。

 この列車は、僕らが普段乗るような電車よりも遥かに大きい。

 ふと顔を上げると、蒸気機関車の煙突から煙が出ているのに気付いた。

 誰かいるのかもしれないと、列車から離れようとすると、客車の扉がプシュッと開き、梯子が下りてきた。

 その音と動きに、思わず体がビクッとはねた。

 それから僕の身体はピクリとも動かず、時間だけが流れる。

 この列車はまるで「乗れ」と言っているかのように、扉を開けっぱなしにしている。

 いつまでもこうしていても埒が明かないので、若干怯えながら、乗ることにした。

「お邪魔します……」

 車内に入った僕は、ボソッと言いながらお辞儀をした。

 中を見渡すと、見たことのある普通の客車だったが、照明がついていないから少し不気味だ。

 戦闘車両の方へ向かったが、戦闘車両の中は以外にも狭い通路のみでそれ以外は何も無かった。

 張りぼてとも思ったけど、それにしては出来過ぎていて、どう見ても本物だった。

 戦闘車両の先には、窓のない分厚い扉があり、それを開けると、今度は黒く窓のない扉が姿を現した。

 それに触れようとすると、自動で開き、扉の向こうにはアニメやSF映画なんかである、薄暗い戦闘指揮所にあった。

 デスクやシート、タッチパネルなどが左右均等に配置されていて、それらを見渡せるように扉の近くにもシートがある。

 奥の中央には大画面、横にも大きめの画面があり、見たことのない文字が表示されている。

 その部屋に足を踏み入れると、それまで薄暗かった部屋が一気に明るくなり、壁は白く、所々に青白い小さな光が見えた。

 僕は一気に混乱して「誰かいますか?!」と大声で訊ねた。

 その声に反応するかのように、横の画面が光り、色々な単語が表示される。

 沢山の何語か分からない単語の中で、一つだけ文字の色が濃くなり、その単語だけ僕は読むことができた。

 その単語は「日本語」だった。

 「何で日本語が…?」なんて疑問に思っている暇もなく、周りのモニターに表示されている文字が次々と日本語に置き換わっていく。

 さらに混乱して身構え、辺りを見回すと、今度は中央の画面が光り出した。

 ゆっくりとその画面に近づくと、どこからか、落ち着いた雰囲気のした女の子の声が聞こえた。

「初めまして、私の名前はコスモス。貴方を所有者(マスター)として登録し、歓迎します」

 コスモス?何を言っているのか分からない。

「君は誰?どこにいるの?」

「私は戦略次元走行列車、コスモス。貴方の列車です、マスター」

 なんだ、列車かぁ…列車!?

 僕はその返答に驚き、混乱を通り越して思考がフリーズしそうになる。

「マスター」

「は、はい!」

 思わず素っ頓狂な声が出る。

「マスターはこの世界の住人ではないと思われます。この世界や私たちに関する知識はありますか?」

「な、無いです」

「それでは、全てをお教えします」

「はい?」

「まず、この世界はマスターがここに来る一週間ほど前に滅びました。原因は不明です。元々は、科学技術が発展した世界で、特に異世界への渡航技術が最も成長していました。その渡航用の手段として、私たちの様な次元走行列車が発明されました。それからしばらくして、単なる移動手段から所有者の娯楽の手段としての機能も追加され、様々な次元走行列車が生産、異世界に輸出もされていました。滅んだ後もこの工場の作業用機械は私を最後に生産し、システム類や各機器などを装備したのち機能を停止しました。私も所有者登録がされていなかったため機能を停止していましたが、私に接近する生命反応を感知して起動しました」

 話し終えたコスモスを見て、一回深呼吸する。

 そして頭の中を整理してやっと理解する。

「僕は、本当に異世界に来たんだ」

 今更そのことを実感すると同時に、どこかホッとしている自分がいた。

「ちょっと待って、本当に君が異世界に行ける列車だとしたら…僕の世界にも行けるってこと!?」

「可能です」

「行けるんだ…」

「私は貴方の命令に従います。どうしますか?」

「帰れる」という事実で更にホッとしたからなのか、僕は元いた世界に帰りたいという気持ちより、この世界を見て回りたいという好奇心が上回った。

「じゃ、じゃあ、この世界を見て回りたいんだ。僕を連れて行って、コスモス…さん?」

「コスモスでいいです。かしこまりました。初期設定を開始し、終わり次第発車します」

「うん…」

 僕が返事すると、部屋中のモニターに文字がビッシリと表示され、処理されていく。

 しばらくすると、中央の画面の文字が引っ込み、白い円が表示された。

 その円に重なるように光がグルグル回り、イルミネーションみたいになっている。

「初期設定完了。圧縮機関圧力上昇完了。異常なし・・・・コスモス、発車します。」

 ブオォォォォォォォォォォォォォォォォォという力強く、長い汽笛が鳴り響き、ガタンッと揺れた。

 中央の画面の円は消え、外の様子が映し出された。

 コスモスは工場の壁に向かってゆっくり動いていて、壁にぶつかる寸前だった。

「うわっ!!ぶつかる!」

 僕はとっさにその場に座り込んだが、ぶつかったという感覚は無かった。

 どうやら、壁は巨大なゲートとなっていたようだ。

 建物の外に出ると、コスモスは地上のレールから離れ、宙を走り始めた。

「凄い・・・飛んでる」

 不思議と揺れはあまりなかった。

 そういえば、この列車の一号車(戦闘列車の次)は前後が外に出られる展望デッキになっているんだった。

 僕はそこに向かうことにした。 

 扉を開けると、ビュウーと風が吹き込む。

「うわっ、凄い」 

 そう声を漏らすほどに、展望デッキに出た僕は驚いた。 

 手すりに掴まり、下を覗くと、かなり高い高度で走っているのか、街が小さく見える。

 どこを見渡しても、動いているものは何も無かった。

 この滅んだ世界には寂しい風だけが吹いている。

 

 それから数時間、コスモスは世界中を回ってくれたが、どこも同じような状態だった。

 僕は、展望デッキからあの戦闘指揮所に戻った。

「もういいよ、コスモス。この世界を見て回るのは、もういい。僕の世界、地球へ向かって」

「かしこまりました、マスター。地球へ向かいます」

 そう言うと空に丸い穴がぽっかりとあいて、コスモスはその穴に入る。

 穴の中は、上下左右が水色を基調とした、鮮やかな世界がひろがっていた。

「え?ここは…」

「ここは、世界と世界の間の超空間です」

「凄く、綺麗…」

 この空間の色鮮やかさが、今まで見てきたものよりも、鮮明に目に焼き付いた。

 モニター越しに見て、心の中で静かな曲を流す。 

 本当に、綺麗だ。

 この空間に見とれていると突然、ピロン♪と音が鳴る。

「あと五分で到着します」

「早い…」

 世界から世界まで、まるでバスか通勤電車のように簡単に行けるなんて、夢のようだと思った。

 コスモスの運転は、全自動で行われているため、五分間何もすることのない僕は、部屋の真ん中の椅子に腰かけた。

 あらゆるメーターが機械的に動いている。

「もうすぐ、世界に入ります」

 その声でモニターに目をやると、また列車の前に穴が開き、コスモスは超空間から抜ける。

 どこに行くのか訊ねられ、僕は「母さんの実家の近くの山で降ろして」とお願いした。

 コスモスは山のひらけた所に着地をすると、ガタガタガタゴトン、ギュウゥゥ、ギュウゥゥゥゥゥ、ガタンッと停まる音がした。

 列車から降りると、もう空は夕日で赤く染まっていた。

 僕は振り返って「またね」と手を振ると、ボッ!と返事をするかのように短く汽笛を鳴らしてくれた。

 そしてドアを閉め、汽笛と共に走り去り、僕はそれを見送った。

 

 母さんの実家に帰ると、連絡がなかったことで軽く怒られた。 

 その日の夜、布団の上で僕はスマホのホーム画面に映る、虹の橋の上を走るSLのアイコンを見つめていた。

 実は降りる前に、コスモスが僕の携帯にアプリをインストールしたのだ。

 そのアプリは、コスモスをいつでもどこでも呼び出したり、離れたところから命令が出来るらしい。

「今度使おうかな……」

「何独りごと言ってるの?」

 いきなり母さんがスマホを覗いてきて、とっさに画面を隠す。

「何でもないよ」

「あらそ。明日は帰る日だから、もう寝なさい」

「うん、おやすみなさい」

「おやすみ」

 僕はスマホを枕元に置いて目を瞑った。

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