コスモス 第一話「不思議な体験」

 七月、里久や凛音の二人といると、毎日が楽しく、気づけば夏休みに入っていた。

 夏休みに入ってから数日、三泊四日で僕は母さんの親戚の家に家族と遊びに来ていた。

 家の周りは田や畑ばかりで、隣の家に行くのにちょっと歩いたり、電車が三十分に一本の田舎である。

 山に囲まれていて、景色はとても綺麗だ。

 本当ならお盆に帰る予定だったが、都合が合わず、夏休みが始まってすぐに来てしまった。

 一日目は夜に着き、家の近くで星を見るのみで、二日目にはお昼に山へ一人で出掛けていた。

 僕は、小さい頃から自然の中にいるのが好きで、この田舎に来ては、よく「ちょっと歩いてくるよ」と言って山の中を散歩している。

 祖父母や両親は、僕が本当は山の中に行っているのを知っている。

 山の中はとても幻想的で、引き込まれるように奥へ奥へと歩いていく。

 奥に進むとちょっとした空間があり、そこで目を閉じて耳を澄ます。

 周りから響く蝉の声、流れる小川の音がきこえてくる。

 そして目を開けると一瞬眩しく感じ、木の葉と葉のすき間から陽が射しているのが見える。

 近くの木陰で休憩し、涼しい風で心を落ち着かせる。

 雲一つない青空、コケだらけの岩。

 夏の暖かさと、木陰の涼しさで僕は昼寝をすることにした。

 木々の揺れる音が、心地いい子守唄になる。

 やがて、僕は白くて何もない浅い夢を見た。

 どれくらい時間が経ったのだろう。

 目を開けてみると、やっぱり眩しく、目をこすりながら体を起き上がらせる。

 すると、目の前に不自然なそれがあった。

「何、これ。穴?」

 そう、穴だった。でも、おかしいのは、さっきまで無かった穴が突然出現したことよりも、その穴の位置だった。

 地面や壁にあいているような穴ではなく、地面から離れて空中にあいている。

 穴の裏は何もない。

 警戒しながら覗いてみると、中は薄暗く、建物のような何かが見えた。

 ゆっくりと手を入れてみる。

「うわっ!入った!」

 すぐに手を引っ込める。

 僕は恐怖と好奇心で一杯になり、入ろうか入らないか、穴の前をグルグル回った。

「よし、明日入ろうそうしよう。だって何かあったら怖いし、準備したいし。明日無くなってたら忘れよう。」

 そう決めると、今日はここまでにしようと、家に戻った。

 お風呂に入る時も夜の親戚のおばさんが作ってくれたおかずを食べてる時も、頭の中はあの穴のことを考えていた。

 あの穴の先にあるもの、それが何なのか想像するだけで、期待が高まる。

 その日の夜は中々眠れなかった。

 

 小鳥が庭の周りをチュンチュンと鳴いて飛びまわり、朝日が雄大な山々を輝かせ、道路のわきの用水路には少し水が流れている。

 僕は重い瞼をこすり、朝早く起きて、昨日の穴のあった場所まで行ってみる。

 草木をかき分け、時には足を滑らせ、やや方向を間違えたけど、何とかたどり着いた。

 「まだある…!」

 そこには、昨日見つけた穴があった。

 恐怖と緊張で震える足を無理矢理動かし、目を瞑ってゆっくりと穴をくぐる。

 風がフューッと吹いていて、体が一瞬ブルッと震える。

 恐る恐る目を開けると、そこには…

 誰もいない街が広がっていた。

 少し紫がかった空、決して廃墟には見えないけどどこか寂しさが残る建物の数々、風に流される塵。

 この街には、明らかに人がいた形跡があり、それでいて活気がない。人がいない。

「どこ?ここ…」

 ゆっくり一歩、また一歩と僕は歩き出していた。

 広く長い道路が続いていて、それを辿っていく。

 右を見ても、左を見ても、やはり人を見つけることができず、鳥すら飛んでいない。

 足の感覚に違和感を覚え、下を向くと、道路は今まで僕が見て来たものとは違う素材で出来ていることに気づく。

 顔上げ、もう一度辺りを見回す。

「やっぱり…」

 道路には電柱や電線、街路樹、道路標識すらなく、シンプルな造りになっている。

 とても近未来的なのにどうして人がいないんだろう。

 この街の寂しさに恐怖が募り、僕は穴のある場所まで戻る。

  そこで僕は自分の目を疑う。

「あ、穴が…!!」

 穴が、どんどん透明になる。

「待って!」

 そう叫んで全力で走ったが間に合わず、穴は完全に消失した。

「そんな……」

 僕は落胆してその場に座り込んだ。

 あの穴が無ければ、元の世界に戻れない。

 穴が消えた今、ここで過ごさなくちゃいけない、もしくはこのまま野垂れ死に、という考えが頭の中に浮かぶ。

 僕はそんな考えを振り払うように首を横に振る。

 何処かに他の穴があるかもしれないし、元の世界に帰る手段が見つかるかもしれない、絶対にあきらめない。

 半分ヤケで立ち上がり、街の探索を続けることにした。

 どこまで歩いても、建物だけの風景が続き、風の音以外何も聞こえない。

 用水路は干からびていて、一滴も水がない。

 建物の中に入ると、中は最近まで誰かが使っていた形跡がある。

 テーブルの上にはコップらしきものが置いてあった。

「本当に、誰もいない」

 そう呟きながら辺りを見渡していると、窓から工場みたいな建物が見えた。

 道路に出て、方向を確かめる。

 どんな物を造っているのか気になり、工場に向かって走る。

 工場の敷地はフェンスに囲まれていて、それを乗り越えようと、手と足をかける。

 中々上ることができず、指の一本一本が痛くなる。

 何とか乗り越えて敷地内に侵入すると、外からは分からなかったが、五つの白い建物があった。

 真ん中に大きい建物を囲むように他の建物が周りに建っている。

 端っこの建物の中に入った僕は、建物内を歩いてまわる。

 建物の中には、多くの大きな機械が機能を停止させて、静かに佇んでいる。

 その機械の近くには、何かの部品がずらっと並べられていた。

 次に一番大きな建物に入ると、想像もしていないものがそこにあった。

 「これって……」

 僕の目の前には、巨大な蒸気機関車を繋いでいる列車があった。

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