コスモス 第十四話「お泊り」

 夕方、コスモスの戦闘指揮所で、今夜はハンザの家に泊まることをコスモスに伝えた。

「分かりました。着替え等必要な物を生産車両にてご用意します」

 いつも通り、淡々と答えるコスモス。

「うん、ありがとう。コスモス」

 素直にコスモスにお礼を言うと、中央のモニターに表示されたリングが点滅した。

「ご主人様。私は先に、必要な物を取りに行ってきますね」

 そう言うと、イオは後ろの車両に移動した。

 コスモスに長く間いたイオの方が、生活に必要な物が揃ってるみたいだ。

「あの、マスター」

「どうしたの?」

「はい。一つ、お願いがあります」

「なに?何でも言って」

「はい。イオを、大切にしてあげてください」

 僕は、驚いた。

 初めてコスモスからお願いされたこともそうだし、しかもその内容がイオを想ったことだからだ。

 でも、何でこのタイミングで……どういう意図で……?

 僕は、色んな疑問を押さえつけて、信じてもらえるように慎重に返答する。

「もちろん、大切にするよ。イオもコスモスも」

 それを聞いて安心したのか、今度は壁にある光が、オレンジ色に光った。

「どうしたの……?急にそんな」

「いえ……ただ、あの子は……」

 何かを言いたそうにしているけど、次の言葉はなかなか出てこない。

「……いいや、理由なんて」

「え?」

「僕は、イオとコスモスを、もちろん大事にするし、目的を果たすことにも集中しなきゃいけないし。だから、皆で協力し合っていこうよ、コスモス」

「はい、マスター……!」

 僕はこれ以上話すこともなく、ただ準備が整うまで、指揮所で待つことにした。

 待っている間は、特にやることもないため、近くの座席に座る。

 目を、閉じてみると、薄っすらとあの時の光景が瞼の裏に映し出された。

 ピロン♪

 その、音で目を開く。

「マスター、生産が終了しました」

「あ、早いね」

 早速立ち上がり、早歩きで生産車へ行き、そこで必要な物をバッグに詰め、イオと一緒に降りた。

 少し歩いて、ハンザの家の玄関を開けると、背が高く優しそうな顔をした知らない男の人がいた。

 僕は、その人を見て困惑し、後ろに下がる。

 どうしようか迷っていると、ハンザが玄関へ来た。

「あ、お父さん。この人が慶介だよ。後ろはイオさん」

 慣れたように、ハンザが僕らを紹介した。

「ああ、君たちか。ありがとう、ハンザを助けてくれて」

「あ、いえ。このくらい」

 僕は、ハンザのお母さんにやったのと同じように、あまり目を見れず、頭を低くして返してしまった。

「今夜は、泊まっていくんだろう。ゆっくりしていってね」

「ありがとうございます」

 僕は、恐縮しながら家に入る。

「お邪魔します」

 後ろでイオが、丁寧にお辞儀している。

「あ、もう夕飯だから、台所行って!」

 ハンザに言われ、台所があるであろう奥へ行く。

「夕飯できましたから、二人の座る場所はここですよ」

 台所に入ると、イシカが椅子を二脚引き、僕らに手招きした。

 僕は、バッグを床に置き、椅子に座った。

 テーブルには、見たことのない料理が並べられていた。

「何か、私にお手伝い出来ることはありますか?」

 イオが、お皿を持ったハンザのお母さんに訊ねる。

「大丈夫よ。座ってていいわ」

「あ、はい」と大人しく返事をすると、僕の横に座った。

 ハンザのお父さんと、ハンザも座り、全員揃った。

「「いただきます」」

 僕とイオは、手を合わせて言った。

「それが、君たちがご飯を食べるときの挨拶みたいなもの?」と興味を示したのか、ハンザこちらを向いた。

「え、あ、うん。そうだよ」

 そうか、世界が違うという事は、何かしら文化が違うんだ。

 もちろん、食文化や作法も。

 つい、いつもの癖でやってしまったから、ここの文化の作法に反してないか、少し不安になる。

「やったらダメだったかな」

「ううん、気にしなくていいよ。自分の世界の作法を大事にして」

「ありがとう」

 それを聞いてホッとした僕は、フォークを手に取り、目の前の料理を口に入れてみる。

 噛んだ瞬間、旨味が口いっぱいに広がり、尚且つ丁度良い歯ごたえで、手が止まらず次々と口へ運ぶ。

「あ、それで」とハンザが、口を開く。

「二人が泊まる用の部屋、一部屋空いてたから片付けたけど、慶介とイオって一緒に寝る感じでいい?」

「え」

 僕は今まで動かしていた手を止め、無意識に、イオと寝ているところを想像してしまった。

 段々と、心臓が高鳴り始め、顔が熱くなるのを感じる。

「私は、問題ないですよ」

 イオは、平然として言った。

 イオからしてみれば、僕と寝た所で時に気にする問題ではないらしい。

 ここで、僕が変に気にしていると余計恥ずかしくなる。

 それに、断ったらハンザたちやイオに迷惑をかけてしまう。

「ぁ、うん……僕も、それでいい、かな…」

 仕方なく、本当に仕方なく、僕は渋々了承した。

 この後のことを考えてしまい、手が震える。

 そのせいで、お皿にある食べ物を上手く刺せない。

 

「ごちそうさまでした」

 結局、僕は終始ほぼ無言で、あまり話せなかった。

 イオは、イシカとそれなりに話していて、食事の時間だけで仲良くなった感じがする。

 ハンザのお父さんとお母さんも仲がいいらしく楽しそうに話していた。

「じゃあ、二人とも。部屋へ案内するよ!」と、ハンザは食べ終わってすぐに立ち上がり、部屋を案内してくれた。

 廊下には、見たことのない家具があり、ちょっとだけ興味を持った。

「ここが寝る部屋だよ。この部屋は靴脱いで」

 ハンザは扉を開けると、僕らを入口に段差のある部屋に通した。

 さっきハンザが掃除してくれたおかげか、とてもきれいな部屋だった。

 大きな窓の前に小さな棚があり、なんとなく小学校の時の宿泊学習で泊まった部屋を思い出した。

 僕は靴を脱いで、靴を揃えると、イオも真似して僕の靴の横に自分の靴を置いた。

 持ってきたバッグを奥の棚の下に置くと、ハンザは床の一部を開けた。

「この袋を出して、と」

 どうやら床下収納になっているようで、そこから大きめの袋を二つ取り出した。

 その袋から中の布のようなものを出すと、一気に膨らみ、なんと布団になってしまった。

「うわ!凄い。便利だねこれ」

「うん、これでも結構あったかいんだよ」

 僕とハンザは、床に布団を敷き、イオが綺麗に整えた。

「それじゃ、シャワー浴びてきなよ」

 整え終えると、ハンザが廊下の方に指をさした。

「お風呂は……」

「お風呂……?ああ、あれは普段、俺ら使わないんだ。使うなら、用意するよ」

「いいや、シャワーで済ませるよ」

 さすがに、そこまでしてもらうのは悪い気がする。

「それじゃあ、イオ先入ってきなよ」

「え、でもご主人様は」

「後で入るから」

「分かりました、お先に入ります」

 イオは、バッグから着替えやタオルを出し、ハンザについて行った。

 それを見送ると、壁に寄り掛かかり、一息ついて今までの緊張を緩める。

 なんとなく部屋の隅々までみると、やっぱり地球では見ない造りをしていて、改めて異世界に来たのだと実感する。

 ただ、今回は前みたいにワクワクはしない。

 どちらかというと、不安の方が大きい。

 僕は、あとどれくらいで地球を救えるのだろうか。

 本当に、救えるのだろうか。

 

 シャワーだけだったなので、イオはすぐに戻ってきた。

 交代で、僕もシャワーを浴びた。

 来ていた服と、タオルは洗ってくれるそうで、洗濯機らしき黄色い機械に入れた。

 髪を乾かし終えると、僕とイオは大きな窓のブラインドを閉めたり、荷物を整理したりして、寝る準備を始めた。

 ある程度準備を終わらせると、布団に目が付く。

 さすがに、一緒に寝るのは気まずいため、イオの布団との距離を離した。

「ご主人様?」

 その声で、ビクッとする。

「どうしたんですか、布団を離して」

「えっと。これは……」

 言葉を詰まらせると、イオは首を傾げている。

「実は……僕、女の子と同じ部屋で寝たことが無くて……ちょっと気まずいというか」

 恥ずかしさから、声がだんだん小さくなってしまった。

「そうですか……。それならどこか、私は外で……」

「え!?あ、ここでいいよ!これくらいの距離なら、大丈夫だから。多分……!」

「そ、そうですか?」

「うん!じゃ、おやすみ!」

 あまりの気まずさに強引に話を終わらせ、照明を消して布団にもぐった。

「はい、おやすみなさい」

 少し間をあけて、イオも布団に入った。

 しばらくすると、風船から空気が抜けるように、緊張や気まずさは和らいだ。

 明日は早く起きたいから、もう寝ようと目を瞑る。

 しかし、全く眠くならない。

 そういえば、自分の家以外で寝るとき、特に友達の家で寝るときなんかは、なかなか寝付けないんだった。

 コスモスで寝た時は疲れていたから、すぐに眠ってしまったけど、今日はそんなに疲れていない。

 眠れないせいで、またイオを意識してしまう。

 心臓が、ドキドキし始める。

 寝ようと頭を空っぽにしようしてもどんどん考えてしまい、それに困っていると、隣から物音がすることに気づいた。

 どうやらイオも寝付けないようで、そわそわしている。

 でも、そわそわの度合いがおかしかった。

 まるで何かを怖がっているかのように布団にくるまったり、何度も何度も寝返りを打ったり、ついには苦しそうな声を漏らしていて、尋常じゃなかった。

 心配になってきた僕は、イオに声をかけた。

「どうしたの、大丈夫?」

「すいません……自分でもよく分からなくって…。まだ理解してない感情に、心が縛られている感じがするんです。なにこれ……」

 そう答えるイオの声は震えていて、泣き出しそうだった。

 僕は、何か異常が起きているのかもしれないと布団を出て、イオの方へ近寄った。

 暗い部屋に慣れた目は、ある程度見えるようになっていた。

「イオ、大丈夫?」

 イオの顔を見ると、今まで見たことのないほど悲しそうな顔をして震えていた。

 その表情で、僕もずっと小さい頃、なかなか寝付けない夜に淋しさや不安が募っていったことを思い出した。

 イオの見た目は、僕より少し年下ぐらいだけど、本当は生まれて二ヶ月とちょっとくらいだ。

 もしかしたら、普段はコスモスに乗ってるからそんな淋しくなることはなかったけれど、今回他人の家に来たことにより、不安や淋しいという感情が芽生えてしまったのかもしれない。

「イオ……」

 どうしたらいいのか分からず、とりあえす寄り添い、緊張しつつもイオの手を握ってみた。

「ご、ご主人様……?」

 僕は無言で、手を握り続ける。

 しばらくすると、イオは落ち着いたのかそわそわしなくなり、ついには眠ってしまった。

 僕も手を握っているうちに、いつの間にか眠りについてしまった。

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