コスモス 第十三話「噂」

 ブオォォォォォォォという汽笛を鳴らしながら、コスモスはいつもよりゆっくりと上空を走る。

 僕らは今、ハンザの家に帰る途中に展望デッキに出て、ハンザの町を軽く案内してもらっているのだ。

「あ!あれが一番見晴らしのいい山で、たまにピクニックにいくんだよ」

 手すりにつかまりながら、ハンザ指さして教えてくれた。

「ハンザさん、あれは何をしているんですか?」

 下を覗き、興味津々に訊ねるイオ。

 僕もそれを見ると、赤い服を着た人が小さな乗り物に乗って、行ったり来たりしていた。

「ああ、あれは、畑を耕しているんだ」

「こっちの世界でも畑を耕すんだね」

 乗り物の形は違っても、やることは地球と同じなんだ。

「あ、あれは川ですね」

 イオの視線の先には、大きな川が流れていた。

 川沿いの木々がとてもきれいで、今度散歩しようかなと思った。

「ここは自然が多くて、とても綺麗なんだ」

「そうだね」

 地球でも、こんな風景が見れたのに……。

  僕は無意識に、手すりを握りしめていた。

 今は目的のために遠くの方に、ビルのような高い建物が建っているのが見えた。

「あれは…都会?」

「向こうの都会には、あまり行かないほうがいいかな」

「え?」

「よし、じゃあ、もうそろそろ、僕の家に着くね。ゆっくりしていってよ」

 ハンザは、強引に話題を変えた。

 深く聞かない方がよさそうなので、僕もこれ以上きかないことにした。

「あ、うん。お邪魔します」

「あ、コスモス、ハンザの家に着いたら、ゆっくり休んで。誰も中に入れちゃダメだよ」

「はい、マスター」

 

 ハンザの家に着くと、ハンザのお母さんが笑顔で出迎えてくれた。

 靴を脱がなくていいようで、そのまま家の中に入ると、廊下を歩いてすぐの大きな部屋に通された。

 その部屋の真ん中には、細長い六人用のテーブルと椅子が置いてあり、僕らはそれに座った。

「本当に、息子を助けて頂いてありがとうございました」とハンザのお母さんは、テーブルになにやらピンク色の飲み物が入ったコップやサンドイッチを出しながら言った。

「い、いえ」

 それを手に取り、飲んでみる。

 ほんのりと甘く、今まで味わったことない味だった。

「美味しい……」

 横に座っているイオが、目を輝かせていた。

「気に入ってもらえてよかったわ。ゆっくりしていってね」

 そう言うと、ハンザのお母さんは奥の部屋へ行った。

 すると、今度は廊下から足音がして、部屋の入口にひょこっと頭が出て来た。

「イシカ、気になるんなら、こっちおいで」

「うん」

 ハンザが手招きすると、タタタと足音をたててこちらへきて、イオの前に座った。

 この部屋には、僕とイオはもちろん、ハンザ、今来たばかりのハンザの妹のイシカがいる。

 お互いに会って日も浅いため、何を話したらいいのか分からず、しばらく沈黙が続いた。

「慶介さんは、どこの世界から来たんですか?」

 最初に話題をふったのは、イシカだった。

「地球って星からだよ」

「チキュウー?聞いたことない……」

「ハンザも、聞いたことが無いって言ってたね。遠いのかな」

 そもそも、あの超空間や異世界動詞の間に距離とかって関係あるのだろうかと、今更ながらに思う。

「というよりかは、異世界への渡航技術のない世界に行くことは、滅多にないからかな。俺も普段行く世界は決まってるし」と横からハンザが言う。

「慶介さんの世界って、渡航技術ないの?」

「まあ、そうだよ」

「あの船は?」

 あの船、コスモスの事だ。

 この世界には、列車という乗り物が存在していないから、特に訂正しないで話を合わせている。

「コスモスは他の世界の遺産ってやつ、だと思う」

「ふ~ん」

 コップを手に取り、ジュースを飲む。

「イオさんは、慶介さんの妹?」

 僕はイシカのその質問を聞いて、思わず飲んでいたジュースを吹き出しそうになった。 

「妹?」

 イオは、妹意味をしらないのか、首を傾げてしまった。

「女の子の兄弟のうち、下の子の事を言うんだよ」

 耳打ちして教えると、今度は「兄弟?」という疑問が返ってきた。

「どうしたの?」

 イシカは、不思議そうな顔をしてこちらを見ている。

「あ、えっと……」

 別に、イオが人でないことを隠す必要はないのだけれど、何故か言葉が詰まってしまう。

 若干テンパっていると、イオが口を開いた。

「私は、アシスタント・ヒューマノイド。ご主人様の道具です」

「え、それってどういう……」

 ニコッと笑うイオに対して、イシカは困惑に満ちた表情で僕を見ている。

「そういう人もいるんだよ、イシカ」

 ハンザは、僕にアイコンタクトを送りながらそう言った。

 いや、一ミリもフォローになってないし、余計にそういう性癖だと勘違いされる。

 僕は、誤解を解くのも兼ねて、今までのことを全て話した。

 イオが人でないこと、コスモスが戦闘用であること。

 そして…僕の世界が、破壊されたこと。

 話している間、ハンザとイシカは真剣に聞いてくれた。

「そんな……それで二人で旅を……」

 話し終えるとイシカは、泣き出しそうな表情で、そう呟いた。

「君らは……無謀だよ。話を聞く限り、勝てっこない。相手の数が分からないんじゃ……。分かったとしても、物量差に勝てる?コスモス単体で」

「確かに無謀かもしれないけど……でも、これしかない……」

「ここで、暮らせばいいじゃないか。ここには、いい人が多い」

 ハンザは僕の目を、真剣な眼差しで見つめ、イシカはハンザの横でうんうんと頷いている。

「あ、でも。ちょっと危険な連中もいるから気をつけて……」

「イシカ!」

 何かを言おうとするイシカを、焦った表情でハンザは止める。

「危険な連中?」

「……戦闘用の船に乗って略奪行為をしたり、地上に降りて脅す輩がいるんだ」

「その人達について、詳しくきかせてくれないかな」

 何か手掛かりになるかもしれない、と僕は身を乗り出して、ハンザに詰め寄る。

「本当に危険なんだ…それに滅多に表に出てこない。いくらコスモスが戦闘特化だからって、どうこう出来る問題じゃない」

 その言葉で、冷静になろうと椅子に座り直した。

「その人たちは盗賊というものなんですか?」

 今度は、イオが丁寧に訊ねる。

「盗賊というか…」

 何故かイシカは、顔を伏せた。

「…この世界を守る企業が、裏で関わってるかもしれないんだよね」

 声を潜めて、ハンザは言った。

「どういう事?」

「慶介たちはもう知ってるけど、この世界には、異世界へ渡航する技術がある。ということは当然、他の世界から危害を加えられることだってあるんだ。実際、他の世界が他の世界に支配されたり、その世界の人々を奴隷化したり、滅ぼしたりだってあったらしいし」

 確かに、昔の人々は海を渡って、他の発展していた文明を滅ぼしたり、支配した土地の人々を劣悪な労働環境下で働かせ、労働力が減ったらそれを補うために奴隷狩りもした。

 でも、異世界に行けるほど発展した世界が、人が、そんなことをするのだろうか。歴史は繰り返すって事なのか。

「で、ここからが重要なんだ。他の世界じゃ、そういうのに対処する軍が存在するんだけど、この世界は企業が担ってるんだ」

「企業が?」

「うん。表向きは異世界からの侵略に対処したり、トラブルを防ぐ大企業。でも、その裏は、人を雇って町を襲わせているっていう噂があるんだ」

「どうしてそんな……。警察とかっていないの?」

「理由は分からないよ。あいまいな噂で確証が全くないし、この世界の警察は、かなり適当で、当てにしないほうが良い」

 驚いた。

 守らなきゃいけない自分たちの世界を、自分たちの手が汚れないよう秘密裏に破壊活動するなんて……。

「まあ、あくまで噂程度だし。ガセネタかもしれないから。不安にさせてごめん。でも、本当に襲ってくる連中には気をつけて。この世界は比較的平和だけど、だからこそ危険な奴も隠れやすい」

「……うん」

 ハンザが明るい声に戻して言ったけど、僕の頭の中に今話された内容がグルグル回っていて簡単な返事しかできなかった。

「ねぇ、慶介もイオも、今夜は家に泊まっていきなよ。母さんに頼んでみるから」とハンザは僕たちに提案した。

「え……いいんですか」

「うん、部屋なら一部屋ぐらいなら空いてるから。それに、いくら旅してるからって、ずっと船の中で泊まるのはよくないしね」

「ご主人様、どうしますか」

 イオが僕に、判断を求めた。

「あ、えっと。でも、迷惑じゃ」

「いやいや、友達とお泊りとかあまりやらないから、むしろ楽しみって言うか。な、イシカ」

「ね!お兄ちゃん」と、イシカは元気に答えた。

 この兄妹は、とても仲がいいのか、意気投合しているように思えた。

「はいはい、話は聞いたよ」

 その涼し声が声がした扉の方を見ると、ハンザのお母さんが立っていた。

「もちろん、ぜひうちに泊まっていってください」

 ハンザのお母さんは、ニコッと笑って言った。

 なんというか、王者の風格みたいなものを感じた。

 ご厚意を、無下に断るわけにはいかない。

「ありがとうございます」

 僕が深々とお辞儀すると、イオもそれを真似てお辞儀した。

「それじゃあ、夕飯の支度しなきゃいけないから、イシカ手伝って」

「あい」

 イシカとハンザのお母さんは、奥の部屋へ行ってしまった。

「僕は、コスモスに伝えてくるよ」

「あ、私も行きます」

「俺は、二人の部屋を片付けとくよ」

 僕らはそれぞれ、泊まる支度をし始めた。

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