コスモス 第十二話「ハンザの世界」

 どこまでも続く、広大でどこか寂しさのある超空間。

 コスモスはその中を、時々汽笛を鳴らし、ハンザの船を牽引しながら走っている。

 ハンザの元いた世界は、航行不能になったところからそこまで遠くないらしいけど、波の影響で遠回りすることになった。

 特にやることのない僕らは、戦闘指揮所で、お互いの世界について話していた。

 中央の座席に僕、ハンザは左前の座席、イオは右前の座席に、それそれ座っている。

「ハンザの世界ってどんな世界なの?」

「どんなって言われても…山があって街があってって感じかな。慶介の方は?」

 訊く限り、基本的にはどこの世界もあまり変わらないのかもしれない。

「僕の世界も、そんな感じだね。無いのは君の船やコスモスみたいな他の世界に行く技術とかだよ」

「ってことは、コスモスは慶介の世界のモノじゃないんだね」

「そうだよ、また別の世界で作られて」

 聞く限りでは、文化や化学技術の違いはあっても、共通する点も多いみたいだ。

 ピロン♪

「マスター、もうすぐ超空間を抜け、ハンザさんの世界に着きます」

「あ、意外と早いね」

 ハンザは座席を回し、中央のモニターに目をやった。

 コスモスはトンネルを抜け、地球と変わらない青空へ出ると、モニターに高さの合わない山々と、大きな湖、遠くには町が映っていて、本当に、地球に似ているという印象だった。

「どうする?ハンザの家に行く?」

「そうだね。お願いするよ」

 ハンザが頷いたの確認し、コスモスに命令する。

「コスモス、ハンザの家まで行って」

「かしこまりました」

「道案内するよ」とハンザが前の方の席に移った。

「助かります」

 ハンザが道案内をしてくれている間に、僕は、イオに外に出る支度をするように言う。

「イオ、外へ出る準備をして」

「この格好でいいですか?」

 イオは勿論、いつもの制服を着ている。

「…イオの好きにするといいよ」

「好きに…。分かりました」

「うん」

 外に出る準備をし始めるイオの後ろ姿を見て、あとどれくらいで着くのだろうとモニターに目をやると、田畑や所々に地球のものとは違うが家があるのが見え、コスモスが田園地帯の上空を走っているのが分かった。

 しばらくすると、畑が広がる土地にポツンと、黄色い屋根に白い壁の一軒家が建ってるのが見えた。

「あ、あれが僕の家だよ!」

「分かりました。着陸します」

 コスモスは、一旦通り過ぎてからUターンをして、徐々に降下していった。

 シュ、シュ、シュ、ギュウゥゥゥゥギュウゥゥゥゥ……プシュー。

 僕らが、コスモスから降りると同時に、家から二人の女性が寄り添いながら出てきた。

 ハンザは、それを見ると、「母さん!!」と真っ先に二人の方へ走って行った。

 僕とイオも、後から歩いて追う。

 二人のうち、片方は僕らより背の高い大人の女性、もう片方はハンザより背の低い女の子で、その子が「お兄ちゃん!」と叫んだのが聞こえた。

 ハンザのお母さんらしき人が、ハンザに何か言っている。

 すると、ハンザは「紹介するよ」とその二人と僕らの間に立ち、僕らに向けて手を出した。

「母さん、こちら天野慶介君と、イオさん」

 紹介された僕とイオは、慌ててお辞儀をする。

「こ、こんにちは。天野慶介です」

「イオです」

 クルッとハンザは振り向き、今度は手を二人の方に出して言った。

「二人とも、僕の母さんと、妹のイシカだよ」

 ハンザのお母さんと、妹のイシカは落ち着いた表情でお辞儀をした。

 よくよく見ると、ハンザのお母さんはとても美人な人で、妹の方はハンザを可愛くした感じの子だ。

 親子三人とも、水色系統の髪で、よく似ている。

「船が故障しちゃって、危ない所を助けてもらったんだ」

 再びクルッと振り向き、ハンザが続けると、「まあまあ!」とハンザのお母さんが、一気に明るい笑顔になり僕の方に歩み寄った。

「息子がお世話になったようで、ありがとうございました」

「い、いえ。偶然通りかかっただけですから」

 丁寧にお辞儀をするハンザのお母さんに対して、あまり目を見れず、頭を低くして返してしまった。

「どうぞ、ゆっくりしていってください」とハンザのお母さんは、家に僕らを案内しようと歩き出すが、ハンザはそれを止めた。

「あ、母さん。船を修理に出さないといけないから」

「あら、そうだったわね。でも運ぶのも大変だし……」

 困ったように、ハンザのお母さんは右の手のひらを頬につけた。

「僕の、えっと……船で引っ張っていきます」

 本当は、船じゃなくて列車なのだけれど、この世界にあるか分からない。

「船…?」

「あれだよ!」

 ハンザがコスモスの方に向けて手を上げると、ハンザのお母さんは物珍しそうな顔をした。

「あれが、船なの…?変わった形だわ…」

「けっこう高性能なんだよ」

「でも、運ぶっていったって、そんなご迷惑はかけられないわ」

「二人は今、旅をしてるんだって。運ぶついでに、この町を軽く案内しようと思うんだ!」

「それなら…ちょっと待ってなさい」

 ハンザのお母さんは、家の中へ何かを取りに戻った。

「イシカ、お前も来る?」

 待ってる間に、妹に声をかけた。

「私は……いい。行かない。お兄ちゃん達だけで行って来て」

 微笑しながら、首を横に振るイシカ。

 やっぱり、知らない人と一緒にいるのは何となく居心地悪いのかもしれない。

 イオとなら、仲良くしてくれそうだけれど。

 そんなことを考えていると、ハンザのお母さんが、手に何かが入った袋を持って戻ってきた。

「これを持って行きなさい」 

「ありがとう、行ってくる」とハンザはその袋を受け取り、僕らと一緒にコスモスに乗った。

「コスモス、ハンザの案内に従って、修理屋さんまで船を運んで」

「了解しました」

 ブオォォォォォォォォォォォォと力強い汽笛がなり、モニター越しにハンザのお母さんとイシカが、耳をふさいでるのが見えた。

 ガタンッ、シュ、シュ、シュシュシュシュ。

「そこまで遠くはないから、ぱっぱと済ませて、この町の案内をするよ」

「うん、ありがとう」

 ハンザの船をつないでるからか、コスモスは優しく加速し、修理屋さんへ向かった。

 

 走り出してから、数分後、ハンザの言う修理屋さんに着いた。

 そこには、車が三台置けるくらいの何で加工されてるのか分からない地面と、古びた白くアパートくらいの大きさの建物があるだけだった。

 コスモスは、その空いてるスペースにハンザの船を停め、その横に停車している。

 ハンザを先頭にして、僕とイオは並んで中に入る。

 建物内は、機材や部品が並べられていて、真ん中には大きな乗り物が置いてあった。

「修理屋さんってこういう風なんですね」

 あたりを見回しながら、イオが言う。

「いかにもって、感じだね」

 ハンザは慣れているのか、奥に向かって「おじさーん!」と大声をだした。

 その声に反応するかのように、奥の部屋から、作業服を着た白髪のおじさんが出てきた。

「なんだなんだ大きな声出すなってぇ…。ハンザか、どした?」

「これ、母さんから」

 さっき渡された袋をさしだすと、袋の中身を確認した。

「おっと、こいつはいい酒だな。ありがとう」

「それで、今日は船が壊れちゃって、直してほしくて」

「おお!そうかそうか。どれ、見てやろう」

 そう言って、そのおじさんは機嫌良さそうに建物の外へ出て、僕らもついて行く。

「おじさんは僕の知り合いで、この辺で腕の立つ人だよ」

「へぇ、凄いね」

 おじさんは、ハンザの船を見ると、すぐさまボディーの一部を外した。

「あーこいつは、ひでぇ壊れ方してるな」

「直りますか?」

「一週間以上はかかるぞ」

「あーやっぱり……」

「まあ、酒も貰ってるし、いつも通り直してやるよ」

「ありがとうございます」

「それで、さっきからそこに居る二人は?」

 特に何もやましい事はしてないのに、何故かギクッとした。

「二人は、僕の命の恩人だよ。僕の船の隣にある船に乗って旅してるんだって」

「そうかそうか、よろしくな」

 おじさんは汚れた軍手を外し手を差し出し、僕は慌ててその手を握った。

 おじさんの手はゴツゴツしていて、力強さを感じた。

 イオにも、同様に手を握った。

「で、二人の乗ってる船ってのはそれか」

 おじさんは、コスモスの方へ近づく。

「珍しい型だが……。この見た目は、聞いたことがあるな。確か次元…次元」

「次元走行列車ですか?」

 僕は、思わず口に出した。

「そう、それだ」

「知ってるの?」

 ハンザは、驚いた顔をして訊ねる。

「いや、俺も実物を見るのは、初めてでな。だが、こいつは……」

 そう応えて、おじさんは、コスモスを全体を見たり、車体の下を観察しだした。

 その時の表情は、一瞬、さっきまでの優しそうな印象が嘘かの様に怖く感じた。

「あの、おじさん。僕は二人にこの町を案内しようと思うんだ」

「お、そうか。え、これで行くの?」

「目立つ?」

「ああ、これだけ巨体で細長けりゃあな。だが、まいっか。どうせ、こんだけ田舎だしな。気をつけろよ」

「うん」

 ハンザの用事を済ました僕らはコスモスに乗り、おじさんの修理屋さんをあとにした。

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