コスモス 第八話「地球が壊された日」

 二学期が始まってから一週間、僕たちは体育祭に向けて、泥だらけになりながらも練習に打ち込んでいた。

 夏の暑さが残る中での練習で気力は削がれ、授業中は疲労で眠く、さらには部活の練習も加わって体中が痛い。

 でも、その成果があってか、最初はまとまりが無かった皆も、今ではどのクラスも団結して、どこが優勝するか分からない。

 今は自由練習時間で、僕たちの学年は本番に向けて練習していて、凛音も他のクラスの子とダッシュの練習をしている。

 彼女は演劇部だけど、運動神経自体はよく、足は普通に速い。

 何で運動部入らなかったのか不思議なくらいだ。

「やっぱりさ、止まる時の動きを確認しとかね?」

 隣にいた里久が提案する。

 僕は今、里久と二人三脚の練習をしている。

 始業式の日からそれなりに練習したおかげか、僕と里久は息ぴったりで、速く走れるようになった。

 出来るようになるほど面白く感じる、それが僕らをもっと速くしてくれる。

 でも問題はまだ残っている。

 それは、走ってから止まる時のタイミングが合わず、いつも転びそうになることだ。

 いくら速度が速くても、止まれないと意味がない。

 そこで、今度は僕が提案する。

「じゃあ……合図したら結んでる足を出して、四歩くらいで止まろう」

「あーそれでやるか」

 肩を組みなおして、早速試す。

 まず「せーの!一、二、一、二」で走り始める。

 そこから加速し、校庭を半周する。

 ほかの練習している人をみるみる追い抜き、バトンゾーンに入る。

「止まるぞ!せーの」

 里久の合図で、声を揃える。

「一、二、三、四!」

 足を揃えて、倒れることもなく止まることが出来た。

「よっしゃ!」

 もう一回やるぞ、と二人で体の向きを変えた時だった。

「きゃあああああ!」

 近くの女子が悲鳴を上げた。

「なんだ?」

 驚いて振り向くと、信じられない光景が目に入った。

 大空に浮かぶ雲から、灰色の巨大な円盤と、それを囲む銀色の車体に紫色のラインが入り、先頭が鋭く尖った列車たち、それらがあちこちに出現している。

 どう考えても未確認飛行物体(UFO)だけど、テレビやSF映画で見るようなそれではない。

 だって、その大きさに恐怖で身体は震え、足が一歩も動かないのだから。

 里久は後ろに下がろうとするが、片足が結ばれていたために、僕らはバランスを崩して、思いっきりしりもちをつく。

「二人共!逃げよ!あれ、何か・・・ヤバい気がするよ!」

 凛音が、酷く怯えた表情でこっちに駆け寄る。

「そ、そうだな。逃げた方が…」

 すぐに逃げるために里久は、慌てて結んでいたゴムをほどいた。

 細き終えて、周りを見ると、あのUFOの集団を見たまま呆然と立ちつくす者、興味津々に近づく者、恐怖で発狂する者、皆それぞれ異なる反応をしている。

 先生も状況を理解できていないようで、口をポカーンと開けて固まっている。

「見ろよ、電車が空飛んでるぜ!」

「え何で飛んでんの!?」

「何かの撮影じゃね?」

「んなわけあるか」

 周りの男子が、どこか楽し気に、あるいは物珍し気に笑いながら言う。

 このままここにいちゃ駄目だ!

 早く遠くに行かないと、みんな死ぬ!

 なぜか分からないけど、そんな気かする。

「皆落ち着いて!避難・・・避難して!校舎へ!校舎へ早く!」

 小柄な女性の先生が、皆を避難させようと声を上げ、他の先生も誘導しようと小走りで広がる。

 僕らは、先生の指示通り避難しようとした。

 ビュウゥゥゥゥゥゥゥン

 その時、「ああっ!」という誰かの声と重なるように、聞いたことのない音がした。

 次の瞬間、UFOが白い光の線を地上に放つと、遠くから爆発音がし、大きな揺れと強風に襲われる。

「衝撃波だ…」

 里久が呟く。

 校庭中に皆の悲鳴が響き、校庭は一気に恐怖に包まれた。

 この感じ、前にもどこかで感じた気がする。

 UFOの周りの列車たちも無数の白い光を街中に放つと、地面に着弾したのか、グラッと揺れた。

 周りの生徒や先生は駆け足で逃げ始め、僕は逃げ惑う人達に押され、里久や凛音とはぐれてしまった。

 とにかく二人を探して逃げようとしたが、足がもつれて上手く走れなかった。

「ヤバい!このままじゃ……!」

 UFOから放たれた白い光が、ぼく目掛けて向かってくる。

 同時に空中に黒い物体が現れ、その光の向きを変える。

 その黒い物体を、僕は見たことがある。

「コスモス……!」

 コスモスは、しばらく空中をジグザグに走ってから着地し、砂埃の舞う中、僕の目前で停まった。

 その間も、UFOは無差別に、街を攻撃している。

 コスモスのドアが開き、焦った表情のイオが手を伸ばす。

「ご主人様!!ここは危険です!早く乗ってください!」

「何が起きてるの!?」

「早く乗ってください、危険です!」

「うわあ!」

 大きく地面が揺れ、体制を崩しそうになる。

 後ろを振り返ると、砂埃の壁と逃げる皆の影が見えた。

「イオ、皆を助け…」

 そう言いかけた時、白い光が校舎に直撃し、激しい爆風で体が吹き飛ばされ、イオは、すかさず僕の腕を引っ張った。

 僕が列車に乗ると、ドアが閉まり、ブオォォォォォォォォォォォォォォォォという汽笛が聞こえた。

 車内が大きく揺れ、コスモスが急発進したのが分かった。

 ドアの窓から、破壊されて大きな炎をあげている学校が見えた。

「コスモス、引き返して!まだ、友達がいるんだ!!!」

「申し訳ありません今の私には、マスターの安全を優先することしかできません」

 悲しそうな声でコスモスが言う。

「きゃっ!」

 イオが、小さく悲鳴を上げる。

 車内では爆発音が聞こえ、小刻みに揺れている。

 何発か、攻撃が当たってるんだ。

「三号車、五号車に被弾。損傷率五パーセント、極めて軽微です」

 学校が吹き飛ぶレベルの攻撃が、軽微……?

 その言葉で、何か大事なことを忘れている気がした。

 思い出しそうなのに、霧に隠れているようにはっきりとしない。

 とにかく、イオを連れて、戦闘指揮所に向かって走る。

 戦闘指揮所…?

「コスモス、確か戦略次元走行列車って言ってたよね?!何か武器があるんじゃ…?」

 戦闘車両が連結されているのを思い出した。

「確かに、私は戦略用です。ただ初期設定がまだ…」

「すぐに設定して!今すぐ使える武器とか用意!急いで!」

「はい、マスター。戦闘に関する初期設定、及び即応可能な武装の検索を開始」

 戦闘指揮所に着くと、燃える街と全てを破壊しようとするUFOたちが、部屋中のモニターに映し出されていた。

 その光景に僕は、胸を締め付けられる。

 そして、あっという間に敵列車たちに取り囲まれた。

「そんな……」

 街が破壊され、このコスモスもやられるという絶望と、諦めたくないという思いが、僕の頭の中で破裂しそうになる。

 そんな時、ピロン♪という音が鳴る。

「初期設定完了、主機関出力バリアー、スタンバイ」

 コスモスの声が聞こえたと思ったら、中央のモニターに「Standby」と表示された。

「展開します」

 急に爆音が小さくなり、揺れが無くなった。

「即応可能な武装の検索が完了しました。攻撃命令を求めます」

「攻撃命令・・・?」

 頭が混乱していて、何を言えばいいのか、何を考えればいいのか考えることが出来ない。

「あ!ご主人様、ホーミング・アローと命じて下さい!」

 イオがモニターを指さして言う。

「わ、分かった」

 イオに言われるがままに、コスモスに命令する。

「ホーミング・アロー!」

「ロック・オン」とコスモスが反応し、ヒユゥゥゥと機械音が部屋中に響く。

「撃て!」

 僕が叫ぶと、コスモスの車体の側面から十数本の赤い光が飛び出し、攻撃してくる敵列車に向かう。

 敵列車たちは回避しようと散開したが、赤い光もそれを追いかけるように曲がった。

 どこまで逃げようとも、赤い光は途切れることもなく、ひたすら後を追い、ついに命中した。

 赤い光が当たった列車たちは爆散し、その破片が地上へ落ちてゆく。

 いける!これなら、街を救える。

 希望が見えてきた。

 そう思っていた。

 でも、そんな考えはすぐに否定された。

「警告、広範囲にわたり超高エネルギー反応を感知。マスターの安全確保のため、宇宙空間まで離脱します」

 突然コスモスが加速しだした。

 思考が追い付かず、しばらく固まってしまった。

 気づけばもう大気圏を突破して、宇宙に出ていた。

「待って!まだ皆…が……」

 中央のモニターを見て、言葉を失う。

 燃えているのは街だけじゃない。

 日本、いや世界中が、UFOに破壊され、燃やされていた。

「ご主人様の、世界が…!」

 イオは、真っ青な顔をして、手で口を押さえている。

 世界各地にいるUFOの集団が、一斉に地球に何か光を放った。

 ピーピーという警報音がなると、モニターが白く光り、あまりの眩しさに目を瞑った。

 目を瞑る瞬間、ちょっとだけ地球が消えていくのが見えた。

 少し遅れて、衝撃波か何かでコスモスが大きく揺れ、僕は近くのシートに掴まる。

 何があったのか確認しようと、ゆっくり目を開く。

「………え?」

 モニターには、あるはずの地球の影がなく、代わりに大きな岩の群れと、空間にトンネルを創ってどこかへ消え去るUFOの集団だけが映っていた。

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