コスモス 第五話「ゲーム」

 チョコを食べ終った僕らは、空調設備の整った車内で、のんびりとフカフカなソファーでくつろいでいた。

 不意に「ふあぁぁ」とあくびが出てしまった。

 やっぱり、このソファーは眠気を誘う気がする。

 まずい……段々と瞼が重くなってきた。

 このまま眠ったら…。

「ご主人様?」

 その声でハッとし、横を向くと、イオが顔を覗かせていた。

「ああ、ごめんね。ちょっと眠くなっちゃってた」

「そうでしたか…申し訳ありません。起こしてしまって」

「ううん、いいよ。イオが退屈しちゃうし」

 体を伸ばして、深呼吸をすると、バッグの中に、二人で遊ぶためのトランプを入れて来たのを思い出す。

「そうだ、イオってトランプって知ってる?」

「トランプって何ですか?」イオは首を傾げた。

 すぐにトランプをバッグから取り出し、イオに見せた。

「これがトランプね。これでゲームするの」

「ゲームって勝ち負けを争う遊びのことですか?本で出て来た気がします」

「うん、トランプは色々なルールで遊べるんだよ」

「万能なんですね」

 どうやら、興味を持ってくれたみたいだ。

 箱を開けてカードを出して、見やすいようにある程度バラバラにして渡す。

「不思議な絵が描かれていますね」

「それぞれ意味があるんだよ」

 僕はハートのAからジョーカーまでの読み方や意味を教えた。

 次に、僕の中で一番簡単なババ抜きのルールを教えようと、二六枚のカードをイオに持たせ、僕は二七枚のカードを掴む。

「僕のカードから一枚引いて、同じ数字のカードがあったら、真ん中に出して。そうそう」

 ふむふむ、とイオは教えたこと一つ一つに相槌をうっている。

 ある程度理解したところで、練習として、僕とイオでババ抜きをしてみる。

 僕はカードを一か所にまとめ、不器用にシャッフルし、互いの前に交互に配る。

 配り終え、今度は同じ数字のカードがあるか確認すると、ジョーカーは無かった。

 チラッとイオの方をみると、イオは明らかに動揺していて、手が震えている。

 お互いに、出来るだけカードを真ん中に出し終えた後、僕が先に手持ちのカードを差し出した。

「さ、引いて」

「は、はい」

 イオはそれを引き、残念そうな顔をした。

 続いて僕もイオのカードを引く。

 あ、同じ数字があった。

 すかさず、真ん中にカードを置く。

 こうしてみると、久しぶりにババ抜きをした気がする。

 それはそうか、誰かとババ抜きをしたのは、小学校の修学旅行が最後なのだから。

 

「ぬぅ…ご主人様、強いですね」とイオは、むすっとした表情で言う。

 現在六回戦目で僕が一枚でイオが二枚で、僕が引く番だ。

 イオのカード運が悪いのか、僕の引きがいいのか、五回戦とも僕が勝った。

 いや、どっちかというと……イオが表情に出やすいんだ。

 僕がジョーカーを引こうとすると、笑顔になり、反対側を引こうとすると、嫌そうな顔になる。

 だから、最後の最後で僕が勝つ。

「ま、また…負けました・・・」

 イオはがっくし、と頭を下げ、手に持ったジョーカーを頭に押しつけた。

 少し、気分転換をした方が良いかもしれない。

 僕は天井を向いて、コスモスに話しかける。

「コスモス、宇宙へ出ることって出来る?」

「はい、可能です」

「宇宙で展望デッキに出ることは?」

「もちろん、可能ですよ」

「じゃあ、宇宙へ出て」

「かしこまりました」

 イオは顔を上げ、きょとんとした表情で僕を見ている。

 ブオォォォォォォォォォォォォォォォという汽笛が鳴り響き、カタンと動き出したのが分かった。

 僕は立ち上がって、イオの方へ行き、手を握る。

「ねぇ、イオ。ずっと座ってて疲れたからさ、展望デッキ行こうか」

「え?あ、はい。分かりました」

 イオはすぐに立ち上がり、僕の後ろについて行くように歩き始める。

 窓から外を見ると、トンネルの出口が列車の前に出現していて、もうすぐ宇宙空間に出ることが分かった。

 展望デッキに出ると同時に、列車の照明が消えた。

「あ…すごい…」

 イオが言葉を漏らし、緑色の瞳が輝いて見えた。

 僕も、展望デッキから外を見渡す。

 幾千、幾万の輝く星々が、そこにはあった。

 その光景に一気に吸い込まれるよな感覚を覚え、目じりが熱くなる。

 僕は手すりを握りながら、イオのそばに寄る。

「僕は、こうやって星を見てみてみたかったんだ。いつもは、山とか行って、そこから見上げるんだ。星を見るのが好きで。イオは、どう?」

「私は……私は、星を見たのは初めてです」

 そう応えると、イオは自分の胸に手を当てた。

「初めて星を見て、今まで感じたことのない感覚がこみあげてきて、体中が痺れるような気がするんです。でも、全然いやじゃなくて、それどころか、心地いいんです。とても不思議な感覚です」

「きっと、それは感動してるんだと思うよ」

「感……動?」

「そう、感動」

「感動……これが、感動」

 まさしく、僕らは初めて見る宇宙に興奮が抑えられなかった。

 二人で話していると、突然、ぐらっと軽く列車の外側に力が働くのを感じた。

 どうやらコスモスが自分で判断して、僕らが星を見やすいように、大きめにカーブしてくれているらしい。

 機関車を見ると主連棒が遅く動いているようだった。

 僕らはこの懐かしささえ覚えるような、限界なんて感じさせないほど広い宇宙を、しばらく無言で眺めていた。

 蒸気機関車の水蒸気が噴き出すような音だけがして、時間が過ぎていく。

「こうして見ると、宇宙って壮大で、綺麗で、それでいて寂しさを感じますね」

 イオが落ち着いたトーンで言い、それに対して、僕は黙って頷えて返す。

 そして、また時間が過ぎる。

「……そろそろ、車内に戻ろうか」

「そうですね。トランプの続きもやりたいですし」

「あ、はい」

 僕たちが車内に戻ると、コスモスは軌道を直進に戻し、汽笛を鳴らしながらこの星の海を疾(はし)り続けた。

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