<<通巻19号>> すなわち「これでいいのだ」

記事提供元:北園茶房
執筆 : 星雲御剣/注釈 : 清水銀嶺

19:すなわち「これでいいのだ」

 今回のサブタイトルは、亡くなられた赤塚不二夫氏の葬儀において、氏の盟友であったタモリが贈った言葉の、締めくくりになる部分である。
 トキワ荘の面々において、その解き「ハナタレ」ぶりのすさまじさで、赤塚氏の右に並ぶモノは居ないのではないだろうか?
 近代日本人の「笑いのツボ」を翻ってみると、赤塚ギャグ以前と以後であからさまに変わっている(★補1)のが分かるほどにその影響力は計り知れない。
 氏の自伝や、各種トキワ荘モノの著作を見るに、赤塚氏は生来、かなり堅い家庭の出であり、そもそもはシャイな線の細い二枚目であって、後年『笑っていいとも!』出演時に、全裸にシーツをまとっただけの姿で生出演したことがある怪人物と同一人物とは、到底思えない程である(★補2)。
 赤塚氏の作品遍歴は、悲劇的少女漫画から、破壊的ギャグマンガへの華麗なる転身である。
 作風の変化と作家自身の性格が見事に合致しているのであるが、ギャグへ転身してからもまた、しばらくの間は「トラワレ」と「ハナタレ」を頻繁に行き来している節がある。(補3)
 そんな氏が、完全に解き「ハナタレ」て、ある種の悟りに達したのは、代表作の『天才バカボン』が再三再四に渡って何度もアニメ化され、国民的キャラクターとなったバカボンパパの決め台詞が、氏にとっての座右の銘になっていった事に無関係ではあるまい。
 不遇に悩み抜き、売れっ子になってからも自分のスタイルを模索し続けた結果、自身の根源を確信し、それ以外の点では自由に解き「ハナタレ」た事が、ここでは重要である。
 「これでいいのだ」……「ハナタレ」の奥義が、この言葉に凝縮されているといっても過言ではない。


補1
 高齢者と談話していると気づかされる事が多いのだが、ある世代以上の人たちは、「あるあるネタ」というか、なって当然の展開を笑いのツボとして好む。
 一方、赤塚ギャグの洗礼を受けて以降の世代は、あり得ない展開のギャップを笑いとして受け止めることが出来る。
 これは、単に加齢による趣味思考の変化だけではなく、時代背景による影響も多分にあるのだと思われる。
補2
 トキワ荘時代には、世間知らずな若者たちの生活の根源を支える存在でもあったようで、「上京したててで、食べ物の買い方が分からなかった」ために餓死しそうになっていた石ノ森氏をすんでの所で助け出したりしている。
 以後、赤塚氏は長い間、年少の石ノ森のアシスタントを努めて行くワケであるが、安定したメジャーデビューはかなり後塵を拝する格好となっていく。
 1981年のアニメ特番『ぼくらマンガ家トキワ荘物語』では、遅咲きだった赤塚氏が解き「ハナタレ」る瞬間がかなり劇的に描かれており、非常に興味深い……のであるが、同作は石ノ森先生の70周年のDVD-BOXの特典としてメディア収録されているのみなので、なかなか見られる機会がないのが惜しい。
補3
 少年マガジン時代の『バカボン』に顕著なのだが、ギャグの方向性の模索にこだわるあまり、漫画作品の枠を逸脱した行為を多々行っている(「利き腕負傷事件」、「最終回事件」、「代筆事件」等の、自作自演の仕掛けイベントのこと)。
 この辺になると、もはや「トラワレ」ているのか「ハナタレ」ているのか、ちょっとやそっとの考察では判然としないが、当時の読者大多数がこれを好意的に受け止めていたようで、この変遷が、晩年における万人誰が見ても心地よい「ハナタレ」ぶりに繋がっているのは確かなようだ。

次回は「20:こだわりも大事・解放も大事」
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&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&& 執筆者紹介 &&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&
◆星雲御剣(せいうん みつるぎ)
 80年代後期ファミコンブームの頃から各ゲーム誌で攻略記事を担当。
 ゲームのみならず、マンガやアニメにも造詣が深く、某大手出版社の入社試験では、面接官に聞かれたウルトラマン、仮面ライダー、ガンダムの顔と名前を全部言い当てたのが合格の最大の決め手になった、と言われている(笑)。
 独特のオタク感を実生活に反映させる生き様を模索、実践する求道者。
◆清水銀嶺(しみず ぎんれい)
 唐沢俊一氏主宰の『文筆業サバイバル塾』第一期塾生。
 既刊『メイド喫茶で会いましょう』(共著)
 『ためログ』にて記事を執筆。

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