コスモス第二十五話「また別の場所での戦い」

 コスモスは敵艦の中の大きな部屋で停車した。

 そこには装置やモニターが多くあり、またこの場にいる十数人の乗組員の中で他の誰とも服装が違っていて、帽子もしている男が見えた。

 どうやら彼はこの艦の艦長のようで、ちょうど敵艦の艦橋で停車できたようだ。

 艦長は静かにこちらを見据えている。

 中央のモニターで確認する限り、他の下級の乗組員は戸惑いながらもこちらに銃を向けて、ある者は発砲している。

 ロケット・ランチャーを撃つ人もいて、それが装甲に当たって爆発したけど、その爆発に巻き込まれているのは相手の乗組員だった。

 彼らの最後の抵抗は、無慈悲にもコスモスには全く通用していない。

「無駄な抵抗は止めてください。現在、あなた方に勝ち目はありません。武器を捨てて投降してください」

 コスモスは客車の窓からはレーザーポインターを照射しながら、外部スピーカーでそう告げた。

 僕の命令なしに、彼女は彼らに警告したのだ。

 銃を捨てて戦闘を放棄する者、未だ抵抗する者、手を合わせて祈りをささげる者がいた。

「撃て!構わず撃て!」

「いやもう駄目だ………俺たちはもう助からない………」

「撃つのを止めろ!殺されるぞ!」

「神よ、我を救いたまえ…………」

 外部の音を拾いとるマイクでもあるのか、外にいる乗組員の声が聞こえた。

 もはやそれはカオスと呼べるものだった。

「やっぱり、抵抗してくるよね」

「私にお任せください」

 そう言うと、コスモスは武器を未だ保持し、抵抗してくる人の方に向けて数発、機関砲を撃った。

 ただ威嚇射撃程度なので当てるつもりはないのか、わざと外しているようだった。

 威嚇射撃とはいえ、さすがに機関砲を打ち込まれては彼らも大人しくせざるを得ない、

「マスター。制圧、完了しました」

「え、あ、うん。ありがとう」

 僕は咳ばらいをして、前へ出る扉を通った。

「私も行きますご主人様!」

「分かった。一緒に行こう」

 指揮所を出てそのまま真っすぐ歩いていくと、コスモスのカウ・キャッチャーの上に立った。

「貴方は……」

 僕は艦長の顔を凝視した。

「誰……?」

 いや本当に誰?マルムが乗っていると思ったのだけど、どうやら違うようだ。

「私はインベンシビレ艦隊『旗艦シュガール』艦長、アイリッシュ=バーンだ」

 アイリッシュと名乗る男は答えた。

「マルム社長はどこへ?この艦に乗ったんじゃないんですか?」

「社長は安全な場所へ避難された。この艦には乗艦されていない」

 どうやら艦隊指揮者と社長は違うらしい。

 それもそうか。社長はあくまで会社を運営するのであって、艦隊を指揮する立場にはない。

 ちょっと考えれば分かることじゃないか。

 自分の馬鹿さ加減に浅いため息をつきながら、僕は質問を続けるのだった。

「あなた方はどうして、人々に酷いことをするのですか?」

「我々はただ、上の命令に従っているだけだ」

「上の命令が間違っていたとしても?」

「命令は命令だ。従うしかない」

「それで…………」僕は拳を握りしめた。「それで大勢の命が犠牲になったんですよ!!」

「子供に何が分かる?大人の何が?世界という広く脆い庇護者を護るとはどういうことか?答えてみたまえ。何も知らない子供に何が分かるというんだ?」

 アイルシュは一歩、前へ出た。

「動かないでください。それ以上動くなら、容赦はしませんよ。それにマスターに対して無礼を働くことも許しません」

 レーザーポインターはアイルシュの額を捉えている。

「いいよ、コスモス」

 なだめるように言った。

「………確かに、僕はまだ14歳の子供です。ただの中学生です。この間、僕の世界が外の世界の船に壊されて、中学生じゃなくなっちゃったけど…………」

「ならば分かるだろう。世界を救うことが難しいことを。その責任の重大性を」

「分かります。でも、そのためだからと言って、誰かを犠牲にしちゃだめです」

「綺麗事だな。そんな考えでは世界どころか人ひとりすら守れない」

 冷たい視線に、僕は突き刺される様だった。

 それはひたすら自分が信じたものが、最後になって否定されたときの絶望を目の当たりにしたような目だった。

 綺麗ごとでは何も救えない。

 分かってる。そんなの。

 色々な人がいて、皆が違う考えを持っている。

 誰か一人の考えだけだけで、世界が動かされることはないんだ。

 お互いに口をつぐみ、沈黙が流れた。

 その時、艦橋の端にあるスイッチが、何かを知らせる電子音と共に黄色く明滅した。

「本部からの通信だ。出ても構わないかね?」

「ダメです。増援を呼ばれたらこちらが危険になります」

「こんな状況下で援軍など呼べるか」

「…………分かりました。どうぞ」

 アイルシュはスイッチに近づき、スイッチを押した。

 機械からは何かが音が出ているようだけど、僕の位置からでは聞き取れない。

 しばらくするとアイルシュの表情は驚きに満ちて、そのすぐ後に冷静さを取り戻した。

「我々の負け、のようだな」

「どういうことです?」

「撤退命令がでた。地上の様子をスクリーンに出してもいいかね?」

 僕は黙って頷いた。

 アイルシュは右手を上げ、部下に無言で指示した。

 部下の一人がタッチパネルを操作すると、艦橋の上部を覆い尽くすような巨大なフォログラムが展開された。

 そこに映っていたのは大勢の人々が一つの建物の前に押し寄せている。

 その白い建物には堂々とSAMAELと表記されており、押し寄せている人々は住民たちだった。

 ある者は瓶のようなものや、家具を投げつけている。

 またある者は自分の持つ船を名一杯加速させてから飛び降り、建物に体当たりさせていた。 

 僕が地球にいた頃何度か見た光景に似ていた。

 これは、抗議活動?

「え!?ハンザ」

 装甲車に乗って逃げたはずのハンザの姿もそこにあった。

「民間人が束になって本社に押し寄せ、そこに警察が介入してきた。我々の今までの活動が公になったのだ」

「どうして…………」

「一般市民を攫い、人質として使った。こうなるも当然だ。今回はやりすぎた」

「じゃあ、これで、もう」

「ああ、全部終わりだ」

 彼は諦めたようにそう言うと、深い息をつき、全軍撤退を命じた。野蛮な艦隊の指揮者は、最後の仕事として、本来守るべきだった大地に凱旋した。

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