<<通巻8号>> 8:エヴァにも見えるウルトラの星(後編)

記事提供元:北園茶房
執筆 : 星雲御剣/注釈 : 清水銀嶺

8:エヴァにも見えるウルトラの星(後編)

 ラミエルとプリズ魔の関係をつぶさに観察すると、ただの猿まねと、系譜を引き継いで新たに魅力あるモノとして創作することの差異が如実に見て取れる。
 どちらも、ほぼ動かない屹立する結晶体である事と、その正体は不明だが明確に危険な人類の敵であることが行動から見て取れる点は同じであり、それ故に人類側が取る作戦のイメージも似たところが出てはくるが(※補1)、肝心要のその点のみを押さえたが故に、それ以外の点はみな見事に異なっている点が重要である。
 アイデアの発想法には「逆転」「拡大・縮小」「追加・省略」という手法があるが、ここでは主に「追加・省略」が効果的に用いられている。
 プリズ魔がラミエルにする際に行われた削除要素としては、プリズ魔の「光を好む性質」と、「それ故に人間を襲う」部分がオミットされ、ラミエルはただひたすらにネルフ本部のみを攻撃する存在に変わっている(※補2)。
 付け足された要素は、対抗する人類側の作戦に大規模軍事作戦的な要素が濃くなっている点である。そして、ココにもまた、引き継がれた別の系譜を見て取ることができる。太平洋戦争をテーマにした、日本海軍戦記物映画の一群である(※補3)。
 『ヱヴァンゲリヲン』を初めとして、庵野氏の監督作品には、戦記物映画から引用したと思われる台詞回しが時折散見されるが、ラミエルに対する「ヤシマ作戦」の件などは、その集大成とも言えるほどに完成度が高い。
 『ウルトラマン』と『戦記物映画』、一見まるで無関係なこの二つだが、ある人物に注目すると、これが無関係どころではないことが分かる。
 その人物とは? ……それは、特撮の神様・円谷英二氏、その人なのである。
 次回は、円谷英二氏から日本の戦前戦後におけるメディアの有り様をのぞき見てみよう。
※注1……円谷英二


★補1
 プリズ魔もラミエルも、撃退作戦で『灯火管制によって真っ暗になる町』という点が共通している。その範囲が、東京都下に限られるか、日本全土に及んでいるかというスケールの差は、アニメ作品であり後発であるエヴァが、より簡単に大風呂敷を広げることが可能だったからであろう。系譜は、引き継ぐだけでなく、時にはこうしてより大きくしていくことが大事なのである。
★補2
 『帰ってきたウルトラマン』において、怪獣と戦う人類側の組織である「MAT」は、英雄と言うよりは「社会的には無駄飯食いのお荷物」と見なされている印象が強い。エヴァの「ネルフ」もこれに準じた所があり、「ヤシマ作戦」においては、「狙われてるのはネルフだけなのに、なんで日本中が迷惑しなきゃならんのか?」という気分が最大拡大されていて、「大風呂敷の爽快感」がいや増しているのはご存じの通り。
★補3
 庵野氏と同世代の方々には覚えがあるかもしれないが、その世代の親は、ウルトラマンなどの特撮モノには眉をひそめても、歴史物という側面を持つ戦記物映画には比較的寛容だったりした。それ故に、子供番組を卒業する年齢になると、その手のモノが好きな「オタク予備軍」達は、戦記物映画の方に流れていく、という傾向が強かった時代があったのである……もちろん、「どっちも同じなんだけどなぁ?」という疑問は言うまでもない(笑) かように、オタクにとっては、時にジャンルの差などは無意味となることがある。

次回は「9:円谷英二の見ていた空」
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&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&& 執筆者紹介 &&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&
◆星雲御剣(せいうん みつるぎ)
 80年代後期ファミコンブームの頃から各ゲーム誌で攻略記事を担当。
 ゲームのみならず、マンガやアニメにも造詣が深く、某大手出版社の入社試験では、面接官に聞かれたウルトラマン、仮面ライダー、ガンダムの顔と名前を全部言い当てたのが合格の最大の決め手になった、と言われている(笑)。
 独特のオタク感を実生活に反映させる生き様を模索、実践する求道者。
◆清水銀嶺(しみず ぎんれい)
 唐沢俊一氏主宰の『文筆業サバイバル塾』第一期塾生。
 既刊『メイド喫茶で会いましょう』(共著)
 『ためログ』にて記事を執筆。

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