子供を護る56の方法 その5【出産は命の選択】

 福島県大熊町の県立大野病院で平成16年に、帝王切開で出産した女性が手術中に死亡した事件で、業務上過失致死罪などに問われた産婦人科医を無罪とした1審の福島地裁判決に対して、検察当局は控訴を断念する方向で検討しているそうです。
 この裁判に対しては、マスコミでの評価も分かれており、カルテ改竄や明確な医療過誤とは云えないとして医師を擁護する見解や、専門知識を持ち合わせない遺族が裁判の過程の中で置き去りにされているという見方などが出ています。
 確かに難しい問題ではありますが、「妊娠して出産する」というのが「当たり前ではない」ということを、もっと多くの人が知るべきでしょう。
 一説には、妊娠して自然分娩によって無事に出産する確率は6割を切るとされています。
 今回の事件の状況ともなった帝王切開を始めとして、医学の発達によって出産の確率が底上げされているだけで、実は出産というのは奇跡のようなものなのです。
 現在では避妊の方法として認識されている、基礎体温を計っての「オギノ式」も、本来は妊娠する確率を高めるためのものでした。
 それは、妊娠しても無事に出産することが難しいからこそ、必要なものだったのです。
 私の子供の場合もそうでした。
 妻の妊娠が分かった当初、双子かもしれないと診断されましたが、実は子宮筋腫が胎児ほどの大きさ(大人の拳くらい)もあることが検査で判明しました。
 医師からは、流産する可能性が高く、筋腫の大きさから子宮摘出を提案され、子供を産むのは諦めるよう宣告されました。
 幸い、私の場合は親類に医療関係者がおり、そのツテを頼って、通常は長期入院の難しい検査設備の整った病院に即日入院させることができました。
 むしろ、妻に入院するように説得するのが大変でした。
 本人は今回は諦めても、次の妊娠に期待したいという甘い考えがあり、なにより長期入院を嫌がったからです。
 現在のような、妊婦のたらい回しが問題になる前でしたが、それでも入院できるのが、ツテがあるからゆえの幸運だとは、まったく思っていなかったのです。
 高い確率で流産の可能性を抱えたまま、なんとか入院させて半年以上が経ったある日、その電話は突然かかってきました。
 胎児の心拍が弱くなっているため、緊急手術で出産させると病院から知らされたのです。
 そして手術前に担当医師から迫られたのは、帝王切開での出産と同時に、子宮摘出に同意することでした。
 もちろん、その時には「可能な限り避けたい」と返答しましたが、子供が無事に産まれたという報告を看護師から受けるのと同時に、手術室の隣室に呼ばれ、一時的に摘出した筋腫に冒された子宮を目の前に置かれ、選択しなければならなくなりました。
 摘出するために太い血管を縛っているからこそ止血されていて妻は無事ですが、もしこの子宮を戻して後から筋腫だけを剥がそうとして大量出血すれば、それこそ命がありません。
 あるいは、いわゆる「産後の肥立ちが悪い」状態に陥って衰弱してしまうことも考えられます。
 目の前に置かれた生々しい子宮には吐き気を覚えることはありませんでしたが、子宮を放棄するという吐き気を催す決断をせざるをえませんでした。
 例え第二子の期待があろうとも、子供が今無事であることを確定し、妻の安全を最大限に優先するための選択です。
 冒頭の事件の場合には、患者は癒着胎盤という難しい症例で、担当医師は事前に大学病院での出産を勧めていたと云われています。
 通常は担当医が紹介状を書くはずですから、これは好機だったはずです。
 しかし、通院の不便さから断ってしまったようです。
 また、この時の出産が第二子で、次の妊娠も望んでいたため、分娩時に問題があった場合の子宮の摘出も拒否していたと伝えられています。
 それが事実であれば、検察が主張していた「中止して子宮を摘出すべきだったのに、無理に続けて失血死させており、過失は明白」というのは言いがかりでしかありません。
 私が子宮を実際に見せられたのは、手術前に摘出に同意していて、太い血管を縛って一時的に摘出するという時間的余裕があったからに過ぎません。
 遺族には納得のいかないことでしょうが、出産という行為が、母親か子供の、あるいは両方の「命の選択」を迫られる危険な行為であると認識していなかったのが、この事件の根幹にあるように思えてなりません。
 そしてそれは、有名人が妊娠すると、安易に「オメデタ」などと報道してしまうマスコミにも責任があるでしょう。
 私の妻の妊娠が分かった時には、医療に携わる、あるいは知識のある親類や友人たちは誰も「おめでとう」とは言いませんでした。
 無事に産まれるまでは言えないからです。
 子供を護る最初の戦いが、出産なのです。
(※朝日新聞2008年08月30日の記事より引用)
 産婦人科医に無罪が言い渡された県立大野病院事件で、福島地検は控訴を断念した。福島地裁判決は「検察側は、その主張を根拠づける臨床症例を何ら提示していない」と述べ、罪となるべき事実について立証の甘さを指摘。その意味で控訴断念は半ば予期されていたことで、地検が「新たな証拠を出せない」としたのも納得がいく。
 だからといって医療界がすべて正しかったのかというと、疑問も残る。具体的には、警察からの鑑定依頼を断ったある専門家が、弁護側からの鑑定依頼は受けて公判で証言した点だ。医療のような専門性の高い分野では、より多くの専門家に意見を聴く必要がある。なぜ捜査に協力しなかったのだろうか。
 亡くなった女性(当時29)の父、渡辺好男さん(58)が病院側に、医療スタッフの話を聞かせてほしいと訴えたが、「忙しい」と断られたということもある。
 今回の裁判は、警察・検察に対しては慎重な捜査を、医療界には「より開かれた医療」の実現を、それぞれ求めたと言えるのではないか。(北川慧一、高津祐典)
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 無罪が確定する加藤克彦医師(40)は「ほっとしています。2年6カ月は、とても長かった。これからも、地域医療に私なりに精いっぱい取り組んでまいります」とのコメントを出した。
 一方、亡くなった女性の父、渡辺さんは「1人の命が亡くなったことを重く受け止め、医療界は変わっていってほしい。裁判が続かないからといって、落胆はしていない。今後も真相究明に向けて活動を続けていきたい」と話した。

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配信 サークル見習い魔術師
編集 泉 都市
著者 清水銀嶺
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