子供を護る56の方法 その4【水難事故から護る】

 夏休みに入って、水難事故が相次いでいます。
 正確には、用水路や川などで子供が溺れる事故は、季節を問わずに起きていますから、日常的に起こりえる事故と思っておいた方が良いでしょう。
 今回は、その対処法を幾つか提示する訳ですが、水難事故においては「泳げる人」や「泳ぎに自信のある人」も亡くなっているという事実があるように、それらの対処法によって必ず助かるということは保障できません。
 むしろ、水難事故は「確実に死ぬ」ものと覚悟して下さい。
 そのうえで、「救命率を高める」のにお役に立てればと思います。
 さて、子供に「危ない所に近づいてはいけない」と言い聞かせることはもちろん必要ですが、そんな言いつけなど守らないのが子供でもあります。
 形態模写を得意とし、子供と猿の仕草を真似させたら右に出る者の無かったマルセ太郎氏(故人)は、「大人ってヤツは、まるで初めから大人のまま生まれてきたようなことを言う」と語っていました。
 大人の言いつけを破った思い出は、多くの人が持っていることでしょう。
 そこからすると、対処法は「危険な場所に行く」・「危険なことをする」というのが前提になります。
 そこで、基本的な装備としてビニール製のゴミ袋を持たせましょう。
 一枚くらい折りたたんで持つ分にはたいした荷物になりませんし、突然の雨のときに雨合羽代わりにもなるスグレモノです。
 川や池にボールなどを落として拾おうとする時には、先に膨らませたゴミ袋を手に持ち拾ったり、一緒に遊んでる相手が水場に落ちた時に膨らませたゴミ袋を投げ入れることもできます。
 もちろん最善は、落とした物は諦め、人が落ちたら別な人に知らせて助けを求めることです。
 しかし繰り返しますが、言っておいても、そうしないことが往々にあります。
 先月の30日には、愛知県の矢作川で、7歳の女児が溺れる事故が起き、そのさいに9歳のお兄ちゃんが助けようと川に入って溺れそうになったため自力で岸に上がってから、通行人に助けを求めたそうです。(※1)
 咄嗟に自分で助けようとしてしまうのは、子供でも大人でもありえることで、それに備えての装備は決して無駄にはならないはずです。
 水に入ってしまった場合、自分が落ちるにしても、誰かを助けようと入るにしても、まずしなければならないのは、「下半身の服を脱ぐ」ことです。
 ズボンやスラックスなどは、水を吸えば、ただの錘(おもり)にしかならず、水を蹴るのにも水の抵抗力を高めてしまうため邪魔になります。
 学校によっては、服を着たままプールに入るという体験学習をしているところもありますので、ご自分の子供が通っている学校で行われていなければ実施するよう働きかけることも必要かもしれません。
 一方、上半身の服は、シャツやジャンパーなどが浮き輪として使える場合があります。
 子供の頃に、湯船でタオルを空気が封じ込められるように丸めて遊んだ方もいるのではないでしょうか。
 また、浮き輪代わりにならないまでも、広げることで救助する人からの目印になります。
 水場の近くに住んでいたり、そういう所に遊びに行くときには、意識的に赤い服などの目立つ服装をさせるのも、大事な安全対策です。
 そして、溺れた時に重要なのは、「泳げること」ではなく「浮いている」ことです。
 むしろ泳げると、自力でなんとかしようとして体力を失ってしまい、救命率は低くなります。
 浮いてさえいれば、発見しやすく救助も容易で、川の場合にはカーブで必ず岸の側に寄せられますし、海の場合も海岸近くなら岸に戻される可能性があり、沖に流されても潮の流れを追跡できます。
 子供に水泳を教えようと思っているのでしたら、水泳選手にでもするのでなければ、泳ぎを上達させる必要はありません。少しでも長く、仰向けに浮いていられるように練習させましょう。
 今月の4日には、神奈川県藤沢市の海岸で2人の中学生が溺れてしまいました。(※2)
 目撃した海岸のライフセーバーはマスコミの取材に、2人は立った状態で河口から海の沖へ沖へと流され、「流されてることに気付いていなかったと思う」と答えています。
 そう、川や海では、「水が流れている」ことを忘れてはなりません。
 一般に、腰より水位が低いと溺れることを想像しにくいようですが、自然においての危険水位は膝下です。
 転倒した拍子に川底などに頭を打ちつけて気を失えば当然溺れますし、水の勢いが一定ではないため、ほんの一瞬の変化で容易に足をとられてしまい、膝下程度の水深があれば浮いた体は、あっという間に流されてしまいます。
 小さい子供ですと、なおさらその危険度は高まりますから、一瞬でも目を離せばオシマイです。
 また、川は見た目に同じ速度で流れているようでも、真ん中のほうが少し速かったりします。
 それはまた水温が違うことも意味しており、急激な温度変化で足が攣ったり、心臓発作を起こすというケースもあります。
 長良川では今年、アユ釣りに訪れた人の水難事故が増えているそうで、原因は特定されていないようですが、深さや幅にかかわらず川の横断は危険な行為です。(※3)
 他に、先の藤沢市の海岸の例では、『離岸流』に巻き込まれた可能性が考えられます。
 これは、「海の中の川」とも言われ、一見同じように海岸に打ち寄せる波の中で、およそ10~30m程の幅の間だけが、毎秒約2m近くという速い流れで沖へと戻っていく海流です。
 これほどの速さだと、オリンピックの水泳選手でも流れに逆らって泳ぐのは難しいそうです。
 それでいて、その流れの境目は分かりにくいため、自分が沖へと流されていることに気付きにくく、気付いたときには、もう自力では戻れなくなっていたりします。
 主に河口付近の海岸で起きやすい現象ですが、海岸の形や風向きなど、複数の要件により予想外の場所でも発生します。
 もし泳いでいて、海岸が急に遠くなったとか、海岸に向かって泳いでも近づけないという時には、この離岸流の中にいる可能性がありますので、脱出方法を覚えておきましょう。
 泳ぎに自信が無ければ、先にも書いたように浮いていることが最優先です。怖いかもしれませんが、海岸を横に見ながら少しずつで良いので海岸に沿って平行に泳ぎましょう。
 泳げるようであれば、同じく海岸に沿っていけば、離岸流を脱け出せます。
 離岸流の中さえ抜ければ、海岸に打ち寄せる波に乗って帰ることができます。
 私自身、小学生の頃に、遊びに行った親戚家で叔父から教わっていたおかげで、泳ぎは不得意でしたが(今でも25mを泳ぎきれません)、この離岸流に巻き込まれたと思われる状況で沖に流される中、横へ横へと泳いでるうちに大波によって海岸へ戻され助かることができました。
 ただ「危ない」と言うばかりでなく、「何がどう危ない」のか、「その時にはどうすれば良いのか」を、子供に言って聞かせるようにしましょう。
(※1)
 30日午前10時40分ごろ、愛知県岡崎市舳越町の矢作川にかかる日名橋付近で、通行人の女性から「日名橋付近から女の子が流されたようだ」と119番通報があった。
 岡崎署の調べでは、流されたのは、同市中園町、会社員井手政直さん(37)の長女で岡崎市立矢作北小2年のみずほちゃん(7)で、川に入って流されたらしい。一緒に河川敷で遊んでいた兄の健人君(9)がみずほちゃんを助けようと川に入ったが、おぼれそうになったため自力で岸に戻ったという。県警や県のヘリも出動し捜索。午後1時すぎに、みずほちゃんとみられる女児を発見し、病院に搬送したが、意識や呼吸はないという。
(2007年7月30日 朝日新聞より引用)
(※2)
 8月に入って最初の日曜日となった5日、海や川での事故が相次いだ。毎日新聞の午後11時現在のまとめでは、東京、福島、愛媛、山口など11都府県で11人が死亡、2人が行方不明となっている。
 青森県平内町浜子の町営海水浴場では、午後5時25分ごろ、青森市新城の会社員、角田秀明さん(29)が約50メートル沖で沈んでいるのを一緒に遊びに来ていた同僚が発見。角田さんは病院に運ばれたが死亡した。午後1時半ごろ到着し、ビールを飲みながら泳いでいたらしい。
 福島市飯坂町茂庭の「茂庭滑滝(なめたき)キャンプ場」近くの摺上(すりかみ)川で午後3時前、福島県伊達市梁川町、市立梁川小5年、霜山拓哉君(11)が足を滑らせて転落し流された。4時間後に発見されたが、死亡が確認された。霜山君は、友人の父親に連れられ友人2人と遊びに来ていた。
 大分県玖珠町の玖珠川では午後4時半ごろ、家族でキャンプに来ていた福岡市南区の高戸秀一さん(51)が、おぼれかけた小学4年の三男(9)を助けようとして流され行方が分からなくなった。三男は無事。
 また、神奈川県藤沢市の海岸で4日に行方が分からなくなった同市立明治中1年の阿部楓(かえで)さん(12)と、大川内輝紀(てるき)さん(13)は5日午前、西約2キロの海岸で相次いで遺体で見つかった。
(2007年8月6日 毎日新聞より引用)
(※3)
 清流・長良川で、アユ釣りに訪れる太公望の水難事故が増えている。3日までにアユの友釣りに訪れたベテランの釣り人3人が川に流されて水死したほか、渓流釣りを含めると計4人が亡くなっており、過去5年で最も多い。郡上市水上安全環境保全連絡協議会(事務局・郡上署)では、チラシを作り、釣り人に注意を呼びかけている。
 郡上署によると、過去5年の釣り人の死亡者数は、2003年と昨年は死亡者がなく、04年と05年が各1人だった。
 今年、急増した水難事故の犠牲者をなくそうと、同協議会では、注意を呼びかけるため、手のひらサイズのチラシ1万枚を作成した。チラシには「川に入る時は、自分の体調を考え、水量など川の状況をよく見る」「川の横断など危険な行為はしてはいけない」と注意事項を明記した。
(2007年8月4日 読売新聞より引用)

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配信 サークル見習い魔術師
編集 泉 都市
著者 清水銀嶺
E-mail:info(アットマーク)magical-shop.net
http://www.magical-shop.net/
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子供を護る56の方法 その4【水難事故から護る】への1件のコメント

  1. AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 7.0; Windows NT 5.1; .NET CLR 1.1.4322; .NET CLR 2.0.50727)
     読者より、「溺れたときにズボンを脱ぐのは適切ではない」という旨のご指摘を頂きました。
     理由として、濡れたズボンは肌に張り付いて脱ぎにくいため、「無理をすると体力を消耗する」こと、「水温が低い場合に体温を温存できる」という点を挙げられており、確かに理に適っていると思われます。
     また、私の記事では、溺れた本人は泳ぐよりも浮いていることが大事だとしていますので、その整合性のうえでも、当該部分を訂正させていただきます。
    (訂正前)
     水に入ってしまった場合、自分が落ちるにしても、誰かを助けようと入るにしても、まずしなければならないのは、「下半身の服を脱ぐ」ことです。
     ズボンやスラックスなどは、水を吸えば、ただの錘(おもり)にしかならず、水を蹴るのにも水の抵抗力を高めてしまうため邪魔になります。
    (訂正後)
     好ましいことではありませんが、子供を助けるために水に入る場合には、「下半身の服を脱ぐ」というのを忘れないようにして下さい。
     ズボンやスラックスなどは、水を吸えば、ただの錘(おもり)にしかならず、水を蹴るのにも水の抵抗力を高めてしまうため邪魔になります。