《オタクサバイバルNEXT》 第6回 主役は誰だったのだろう?~初代フリット編を振り返ってみると……

執筆 : 星雲御剣/注釈 : 清水銀嶺

N06:主役は誰だったのだろう?

 ガンダムAGEは、十五話で初代主人公編が終わり、十六話から二代目の息子の代に話がシフトした。
 ここで改めて、初代フリット編を振り返ってみると……どうも、誰の物語だったのかが微妙にぼやけている感じがする。
 物語における主役とは、ドラマの進行によって何らかの変化を見せる登場人物の中で、特に劇的な経験をし、大きな変化をした人物の事である。
 その点に注目してみると、フリット編には主役らしき人物が、ガンダムに乗っていて公式にも主人公と銘打たれているフリット、徐々にフリットの行動に理解を深めていくヒロインであるエミリー、反逆者の汚名をあえて被りながら己の復讐劇を完遂した艦長のグルーデック、と三人もいるのだ。
 しかも、メイン主役であるはずのフリットが、サブヒロインであるユリンの死を経験しても、基本的な目的ベクトルに変化がない。
 母の死によって始まった初期ベクトルを、ユリンの喪失によって再確認しただけに終わっているため、フリットの物語としてみた場合、どうにも物足りない印象を受ける(★補1)。
 一方、エミリーやグルーデックはと言えば、反対から理解へと変遷したエミリー、目的を成し遂げたグルーデックとなかなかに興味深い変化をしているものの、フリットに比べて露出時間が少ないため、第一部終了後の感想として「そういえばそんな風だったな」と言うだけに終わっている。
 一言で言えばメリハリがきいていないのだ。
 ガンダムには群像劇という側面があるが、群像劇に入り込むには、やはりメインの主役、その軸足がしっかりしていている事が最低限必要である。
 例えばファーストガンダムのアムロは、戦う動機付けを「災難」「強制」「義務感」「自己表現」「使命感」と段々と変化させていて、その都度起こるドラマが各話の道標となっていた。
 AGEのフリットは、この点が曖昧なのだ。(以下次号)


★補1
 大事な人の喪失による決意を二度重ねた理由は、大人の事情を鑑みれば、第二部アセム編でガンダムをパワーアップさせる必要があり、そのために必要なイベントなんだな、というのは分かる(笑)
 であるにしても、初期目的の再確認だけではなくて、何かもう少し人物的な変化が劇的に見えても良かったかな、と言う気分はどうもに抜けきらない。
 つまるところ、導入部を担わされたフリットには、わかりやすさが重視されたために葛藤が少ないのが原因だろう。
 その点、第二部のアセムには、父・フリットの目的意識に対する葛藤があるようである。

◆次回は、N07:芯を見逃すな
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&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&& 執筆者紹介 &&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&
◆星雲御剣(せいうん みつるぎ)
 80年代後期ファミコンブームの頃から各ゲーム誌で攻略記事を担当。
 ゲームのみならず、マンガやアニメにも造詣が深く、某大手出版社の入社試験では、面接官に聞かれたウルトラマン、仮面ライダー、ガンダムの顔と名前を全部言い当てたのが合格の最大の決め手になった、と言われている(笑)。
 独特のオタク感を実生活に反映させる生き様を模索、実践する求道者。
◆清水銀嶺(しみず ぎんれい)
 唐沢俊一氏主宰の『文筆業サバイバル塾』第一期塾生。
 既刊『メイド喫茶で会いましょう』(共著)

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